金星軌道の塵の環を初めて全周撮影
【2021年4月22日 NASA】
太陽系の中には無数の塵が漂っていて、特に惑星の軌道の周りに多く集まっている。塵は太陽光を反射して淡く光り、空が暗くて条件が良ければ地球上から黄道光として観察することができる。
金星付近から太陽に近づく楕円軌道を回るNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」(以降「PSP」)の広視野撮像器「WISPR」は、金星の軌道付近における塵の反射光をとらえていた。しかし、WISPRは主に太陽風のかすかな光をとらえるために設計されているため、太陽風の100倍以上明るいながらも変動が少ない金星軌道周辺の塵は画像処理で自動的に消され、これまで見過ごされてきた。
2019年の8月から9月にかけて、PSPは軌道を調整するために回転していた。これにより、動かないせいで画像処理されてしまった塵の姿もWISPRが出力する画像に写るようになり、研究者たちの目に留まった。そこで、WISPRが過去に撮影したデータを画像処理し直したところ、そこにも金星軌道の塵が写っていたことが明らかになった。
金星の軌道に沿って広がる塵の環(赤い点線の部分)(提供:NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/Guillermo Stenborg and Brendan Gallagher)
金星の軌道に沿って広がる塵は1970年代に米独の太陽探査機「ヘリオス」が発見しており、2007年から2014年にかけてNASAの太陽探査機STEREOも撮影していた。しかし、これらの観測では環の一部しかとらえていない。塵の環を金星の軌道のほぼ全周にわたって写したのはPSPが初めてだ。視野角95°以上というWISPRの性能が発揮されたおかげである。今回の観測で、金星の軌道付近の塵は周囲に比べて10%ほど明るいことも示された。
画像処理で消してしまってはいたが、実は塵の観測もWISPRに当初から期待されていたミッションの一つである。今後期待されるのが、太陽付近に広がるとされる「塵の存在しない領域」の発見だ。太陽に非常に近い領域では、強い太陽光によって塵が熱せられ蒸発してしまうと考えられている。この予測が観測で実証されれば、塵による光への影響をより良く理解できるため、遠くの恒星や銀河を研究する天文学者にも恩恵がある。
観測の邪魔者として画像処理で消されてしまうことも多い塵の光だが、多くの研究者にとっては太陽系の塵それ自体が興味深い研究対象だ。長らく、塵の起源は彗星や小惑星の破片と考えられてきたが、最近では火星の大規模なダストストーム(砂嵐)が太陽系における塵の主要な供給源だという説も登場している。また、塵がどうやって金星や地球といった惑星の軌道付近に集まるかについても諸説あり、今後の研究が待たれるところだ。
金星と塵の環、パーカー・ソーラー・プローブのイラスト(提供:Johns Hopkins APL/Ben Smith)
〈参照〉
- NASA:NASA’s Parker Solar Probe Sees Venus Orbital Dust Ring in 1st Complete View
- The Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory:Parker Solar Probe Captures First Complete View of Venus Orbital Dust Ring
- The Astrophysical Journal:Pristine PSP/WISPR Observations of the Circumsolar Dust Ring near Venus's Orbit 論文
〈関連リンク〉
- Parker Solar Probe
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:黄道光
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