恐竜を絶滅させた小惑星の物質をクレーター内で発見

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6600万年前の生物大量絶滅を引き起こした小惑星に由来するイリジウムが、衝突クレーター内の海底から検出された。クレーター内でイリジウムが見つかったのは初めてだ。

【2021年3月1日 東京工業大学

約6600万年前(中生代白亜紀の終わり)、恐竜やアンモナイトなど多くの生物種が姿を消す全地球的規模の大量絶滅が起こった。この大量絶滅は、直径10km程度の小惑星が地球に衝突して引き起こされたことがほぼ確実と考えられている。

この「小惑星衝突による大量絶滅」説の証拠は主に二つある。一つは1980年代以降、世界各地で6600万年前の地層からイリジウムが高い濃度で検出されたことだ。イリジウムは隕石には多く含まれるが地殻の岩石にはほとんど含まれない元素であるため、この時代に地球外の天体が衝突したとする仮説が唱えられるようになった。

もう一つの証拠は、この衝突の痕跡とみられる「チチュルブ・クレーター」(直径約200m)がメキシコ・ユカタン半島沖で発見されたことだ。クレーターができた年代は約6600万年前と推定され、イリジウム濃集層の年代とよく一致している。現在では、このイリジウム濃集層が中生代白亜紀と新生代古第三紀を分ける地質年代の境界(K/Pg境界)を示す地層とされている。

チチュルブ・クレーター
(上)メキシコ・ユカタン半島に残るチチュルブ・クレーター(半円状の地形)。2000年にスペースシャトルからのレーダー地形観測で得られたデータを画像にしたもの。クレーターの縁が高さ3-5m、幅約5kmのわずかな谷地形として残されていることがわかる。クレーターの北半分は海底にある。衝突が起こった6600万年前にはクレーター全域が浅い海にあった。(下)地球観測衛星ランドサットが撮影した同じ地域の擬似カラー画像。緑・黄・赤は森林や農地、白は市街地を示す(提供:NASA/JPL

だが、イリジウムなどの小惑星由来の物質がチチュルブ・クレーターの内部でどのように分布しているかはこれまでよくわかっていなかった。これほど大規模な天体衝突では、衝突で生じる熱で小惑星本体はほとんど蒸発し、さらに巨大津波や地震、海底での熱水活動などが引き起こされてクレーターの内部が激しい変動を受けるため、小惑星の物質はクレーター内には残らない、とも考えられていた。

そこで、小惑星衝突説の「最後の証拠」となる、チチュルブ・クレーター内部の小惑星物質の分布を明らかにしようという研究が2016年に始まった。これは、海底を掘削してコア(円柱状の試料)を採取し、地球の様々な謎を解明しようという「国際深海科学掘削計画(IODP)」の一環として行われたものだ。この掘削でクレーターの海底部分から深さ約830m分のコアが採取された。

コア試料
2016年にチチュルブ・クレーター内部を掘削して採取されたコア試料。左から右に向かって深くなる。中央の灰色がかった緑色の石灰岩層と濃い茶色の粘土層の境目にイリジウムが高い濃度で含まれていた。画像クリックで表示拡大(提供:Onshore science party of IODP-ICDP Expedition 364)

ベルギー・ブリュッセル自由大学のSteven Goderisさん、伊・パドバ大学の佐藤峰南さん、東京工業大学の石川晃さんたちからなる国際研究チームは、このコアのうち、衝突が起こった時代の堆積物(厚さ約130m分)にどんな元素が含まれるかを詳細に分析した。その結果、衝突で積もった堆積物の一番上の部分に、イリジウムが他の層より約30倍多く含まれていることを突き止めた。チチュルブ・クレーターの内部から高濃度のイリジウムが検出されたのはこれが初めてだ。

今回、イリジウムがクレーターの内部でも非常に高濃度で保存されていることがわかったのは、意外かつ非常に興味深い結果だと研究チームは述べている。

今回の発見によって、衝突地点であるチチュルブ・クレーター内の堆積物と世界各地のK/Pg境界層とを比べることで、それぞれの地層に記録されているイベントの時間軸を正確に揃えることができる。研究チームによると、衝突後にクレーター内の海水は激しくかき回されたはずだが、それにもかかわらず堆積物の一番上の層でイリジウムが見つかったということは、小惑星の衝突後、数年から数十年かかってイリジウムが降り積もった可能性があるという。

今後、掘削コアの堆積物を詳しく解析することで、クレーターが作られた時系列を細かい時間刻みで明らかにしたり、衝突で放出された物質が地球全体に拡散していった過程やこの時代の大気・海の変動の様子をより詳しく復元したりできるかもしれない。