日韓VLBI、重力レンズを通してブラックホールのジェットを観測

このエントリーをはてなブックマークに追加
日韓合同VLBI観測網KaVAを用いた観測によって、77億光年彼方のクエーサーの中心部から噴出するジェットがとらえられた。

【2020年10月16日 国立天文台VERA

さんかく座の方向77億光年の距離にあるクエーサー「B0218+357」は、クエーサーと地球との間に存在する銀河による重力レンズ効果を受け、像が2つに分離して見える天体である。これまでの観測で、ガンマ線の波長でB0218+357に激しい爆発現象が観測されるなど、極めて激しい活動性を持つ超大質量ブラックホールがクエーサーの中心に存在することが示唆されていた。

重力レンズ効果の仕組み
重力レンズ効果の仕組み。背景のクエーサーから発せられた光や電波の進行方向が中間にある銀河の重力によって曲げられ、背景のクエーサーの像が2つに分離して観測される(提供:NASA/ESA and the Hubble Legacy Archive; 国立天文台、以下同)

B0218+357は電波やVLBIを用いた高解像度観測も行われてきたが、これらの観測は波長の長い電波で行われていたため、手前の銀河中のガスによる吸収や散乱の影響を受けやすい。そのため像がぼやけており、クエーサー中心部の正確な姿をとらえることはできていなかった。

国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんたちの研究チームは、日韓合同VLBI観測網「KaVA(KVN and VERA Array)」を用いてB0218+357の詳細な電波観測を行った。KaVAは波長の短い電波での観測に適しており、2つのレンズ像の両方で、超大質量ブラックホールから噴出するジェットの様子を鮮明に撮影することに成功した。

B0218+357
(上図)ハッブル宇宙望遠鏡(可視光線観測)によるB0218+357の二重像(AとB)。2つのレンズ像の周囲に広がる渦巻構造は、クエーサーの手前にある銀河。(下)KaVA(波長7mm帯)で撮影したレンズ像A(右)、B(左)それぞれの高解像度電波画像。両レンズ像に、超大質量ブラックホール近傍から噴出するジェットが見られる。2つの像はもともと同一の天体だが、クエーサーとレンズ源となる銀河との位置関係によって重力レンズ効果の影響がAの位置とBの位置で異なるため、観測されるジェットの方向が異なっている

また、異なる波長帯での電波強度(スペクトル)を比較し、この観測波長帯では手前の銀河による吸収や散乱の影響を受けていないことも確かめられた。さらに、2つに分離した像に重力レンズ効果のモデルを当てはめてクエーサー本来の形状を推定したところ、超大質量ブラックホールから噴出したジェットが約600光年にわたって広がっていることも明らかになった。

研究チームでは、現在KaVAに加えて可視光線、X線、ガンマ線などを含む世界中の望遠鏡と協力してこのクエーサーのモニター観測を行っており、ジェットの運動やブラックホールの性質についてさらなる調査を進めている。

関連記事