矮新星アンドロメダ座PQ、32年ぶりのアウトバースト

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長らく明確なアウトバーストが見られていなかった矮新星アンドロメダ座PQ星が増光し、10等台まで明るくなっている。

【2020年6月2日 VSOLJニュース

著者:大島誠人さん(兵庫県立大学西はりま天文台)

矮新星アウトバーストを示す激変星は数多く知られていますが、その頻度は天体によって大きく異なります。短いものでは数日間隔でアウトバーストを繰り返しますが、長いものになると数年以上ということも珍しくありません。欠測による見落としやシーズンオフで観測できないアウトバーストもあるため、間隔の長い天体になると正確な間隔についてはなかなかはっきりしないのが実情です。

1988年にアンドロメダ座に発見された「新星」もそのような天体の一つでした。イギリスのMcAdam氏によって10.0等の新天体として発見され、当初は新星と思われましたが、分光観測などから新星爆発ではなく矮新星アウトバーストによって明るくなったものであることが明らかになりました。その後、過去に同じ領域を撮影した画像から1938年と1967年にもアウトバーストを示していたことがわかり、非常に長い間隔でアウトバーストを繰り返す矮新星ではないかと考えられるようになりました。この天体は、後にアンドロメダ座PQ(PQ And)という名称が付けられましたが、その後は長らくアウトバーストが観測されませんでした。

アンドロメダ座PQの位置
アンドロメダ座PQの位置(「ステラナビゲータ」で星図作成)

それまでの記録の間隔を元にすると20~30年くらいの間隔でアウトバーストしているわけですが、見落とされているアウトバーストの可能性なども考え、10年に一度アウトバーストする天体ではないかと疑われた時期もありました。そのため、1999年ごろにはそろそろ次のアウトバーストがやってくるのではないかという呼びかけがなされたこともあったのですが、アウトバーストは観測されませんでした。結局、発見から30年以上にわたって明確なアウトバーストは見られなかったのです(14~15等くらいのごく暗いアウトバーストが疑われる観測はいくつかあります)。

このアンドロメダ座PQが32年ぶりにはっきりとしたアウトバーストを起こしました。最初に発見したのは、愛知県の広沢憲治さんです。広沢さんは5月29日3時40分ごろ(日本時)に、この天体が明け方の空で10.48等(デジタルカメラG等級)まで明るくなっていることを発見しました。その後、インターネット上に発見報告がなされ、それを受けたヨーロッパの観測者によっても追観測が行われました。

現在は明け方の低い空でしか見ることができず、観測できる時間が短いため、まだ詳しい観測は行われていませんが、アウトバーストの間隔や振幅の大きさから、矮新星のうちの「や座WZ型矮新星」に属する天体である可能性が高いと思われます。このグループの天体はアウトバーストの頻度が特に稀なことで知られますが、アウトバースト間隔がよく知られているもので20年を超えるものはごくわずかしかありません。今回の現象でアンドロメダ座PQのアウトバースト間隔も30年前後である可能性が高まり、非常に珍しい天体といえるでしょう。さらに、アウトバーストの最中にスーパーハンプと呼ばれる短周期変動が見られるタイプのアウトバースト(スーパーアウトバースト)であろうと思われます。

アンドロメダ座は赤緯が高く北半球の中高緯度地域では一年中観測できますが、5月ごろは太陽に近く、さらに夏至にも近いために実際には観測はなかなか困難です。とくにアンドロメダ座PQはペルセウス座に近いため、まだ明け方低い空にしか上がってきません。今回の発見は、3月22日に前の観測シーズンの最終報告があった後、今シーズンの初観測でアウトバーストがとらえられたものです。

近年、世界各地でサーベイ望遠鏡などが数多く稼働するようになり、矮新星のアウトバーストもこれらサーベイチームの手による第一発見が増えてきました。しかし空は広大であり、全ての矮新星のアウトバーストがサーベイで捕捉されているわけではありません。今回の発見は、そんな従来のような変光星観測者によるモニターの重要性を改めて示したものともいえるでしょう。

悪条件のなかで見事にアウトバーストをとらえた広沢さんに拍手を送りたいと思います。

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