彗星と星形成領域にリンを含む分子を検出
【2020年1月30日 アルマ望遠鏡】
人体のDNAや細胞膜に含まれるリンは、生命にとって必要不可欠な元素だ。しかし、リンがどのように初期地球にもたらされたのかは、はっきりとはわかっていない。
伊・国立天体物理研究所のVictor Rivillaさんたちの研究チームは、星形成領域の観測データと彗星の探査データから、リンを含む分子が作られる場所やリンが彗星に取り込まれる可能性についての研究を行った。
Rivillaさんたちはまずアルマ望遠鏡で、ぎょしゃ座の方向約7000光年彼方の大質量星形成領域「AFGL 5142」を詳細に観測した。その結果、大質量星の形成と同時にリン含有分子が生成されることが示された。一般に、若い大質量星から噴出したガスによって、星を取り巻くガス雲に穴があけられる。この空洞の壁面で、星からの強い放射や衝撃波を受けてリン含有分子が作られるという。観測では、リン含有分子のうち一酸化リンが最も豊富であることもわかった。
アルマ望遠鏡によるAFGL 5142の擬似カラー画像。色はガスの速度に対応し青、緑、赤の順に速く地球の方向に動いている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rivilla et al.)
こうした分子を含むガスをもとにして太陽のような質量の小さい星が形成されると、その過程で一酸化リンが凍結し、星の周りに残っている氷と塵でできた粒子の中に閉じ込められる可能性がある。これらの塵が集まって彗星が形成されれば、彗星が一酸化リンの運搬役となって、リンが地球へともたらされる可能性がある。
研究チームは次に、ヨーロッパ宇宙機関の探査機「ロゼッタ」が取得したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)のデータを調べた。彗星のデータにリンの兆候が見られることはすでに知られていたが、彗星にリンを運んだ分子の種類まではわかっていなかった。今回、アルマ望遠鏡による結果を受けてデータを見直したところ、その分子が一酸化リンであることが確かめられたのだ。
(背景画像)AFGL 5142周辺の広視野画像。(左上の四角)AFGL 5142の擬似カラー画像。(右)チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)。(左下の四角)一酸化リンや窒化リンの分子構造モデル(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rivilla et al.; ESO/L. Calçada; ESA/Rosetta/NAVCAM; Mario Weigand, www.SkyTrip.de)
彗星における一酸化リンの初検出によって、リン分子が星形成領域で作られて彗星に運ばれ、地球に到達するまでの軌跡が見えてきた。「アルマ望遠鏡とロゼッタの観測データを組み合わせることで、星形成の全過程をつなぐ『化学の糸』が明らかになりました。この中で、一酸化リンが支配的な役割を果たしているのです」(Rivillaさん)。
「おそらく、彗星によって地球に大量の有機物がもたらされたはずです。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星で一酸化リン見つかったことは、彗星と地球上の生命との関係を強める証拠となるでしょう」(スイス・ベルン大学 Kathrin Altweggさん)。
研究内容の紹介動画(提供:ESO)
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:彗星と星形成領域にリンを含む分子を検出 -アルマ望遠鏡と彗星探査機ロゼッタの協働
- ESO:Astronomers Reveal Interstellar Thread of One of Life’s Building Blocks - ALMA and Rosetta map the journey of phosphorus
- ESA:Mapping the cosmic journey of phosphorus with Rosetta and ALMA
- MNRAS:ALMA and ROSINA detections of phosphorus-bearing molecules: the interstellar thread between star-forming regions and comets 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- 彗星探査機「ロゼッタ」
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)
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