支出よりも収入が多い、天の川銀河のガス
【2019年10月18日 HubbleSite】
天の川銀河では超新星爆発や激しい恒星風によって、ガスが銀河円盤から銀河を取り囲むハローへと出ていく。そのガスは銀河円盤へと戻ってきて、新しい星の材料となる。こうしたガスのリサイクルは数十億年以上にわたって繰り返されてきた。
米・宇宙望遠鏡科学研究所のAndrew Foxさんたちの研究チームは、このリサイクルの仕組み全体を理解する目的で、ハッブル宇宙望遠鏡が10年間で取得した紫外線観測データを分析した。
ガス雲そのものを観測することはできないが、はるか遠方のクエーサーからやってくる光がガス雲を通過すると、光のスペクトル中に吸収線という特徴が表れる。銀河円盤から遠ざかるガス雲を通り抜けた光の場合、吸収線の波長は赤いほうにずれ、反対に銀河円盤へと近づくガス雲を通り抜けた場合は波長は青いほうにずれる。この情報を手がかりとして、Foxさんたちはガス雲の存在とその動きを調べた。
天の川銀河におけるガスの出入りの観測の概念図。クエーサーの光が銀河円盤から遠ざかるガスの中を通るとスペクトル中の吸収線が赤い方向にずれ、銀河円盤に近づくガスの中を通ると吸収線が青いほうにずれる。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, and D. Player (STScI))
その結果、天の川銀河におけるガス雲は、出ていく量よりも入ってくる量のほうが多いことが明らかになった。「バランスが取れているという結果が得られると予測していたのですが、支出よりも収入のほうが多いようです」(Foxさん)。
入ってくる量のほうが多い原因はわかっていないが、銀河間空間からガスがやってきているのかもしれない。あるいは、天の川銀河の周辺に存在する矮小銀河からガスを奪っている可能性もある。また、今回の研究は銀河全体を対象としているが温度の低いガスしか見ておらず、温度が高いガスのことを考慮する必要もあるかもしれない。
「天の川銀河を詳しく調べることは、宇宙に存在する他の銀河を理解するための基礎になります。今回私たちは、天の川銀河が想像以上に複雑なことを認識しました」(独・ポツダム大学 Philipp Richterさん)。
〈参照〉
- HubbleSite:Milky Way Raids Intergalactic 'Bank Accounts,' Hubble Study Finds
- The Astrophysical Journal:The Mass Inflow and Outflow Rates of the Milky Way 論文
〈関連リンク〉
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