わずか20日で現れ消えた謎のX線源

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NASAのX線天文衛星「NuSTAR」で渦巻銀河NGC 6946の中に明るいX線源が検出された。しかし10日後の観測では見つからず、その正体は謎に包まれている。

【2019年9月10日 NASA JPL

2017年5月14日、「花火銀河」のニックネームで知られるケフェウス座の渦巻銀河NGC 6946に明るい超新星SN 2017eawが出現した(参照:「ケフェウス座の銀河に13等の明るい超新星が出現」)。

この超新星を調べるためNASAのX線天文衛星「NuSTAR」が銀河に向けられ、5月21日と11日後の6月1日の2回観測が行われた。そして、SN 2017eaw以外にもいくつかのX線源が見つかった。

1回目の観測では、銀河中心に近い領域にX線源は検出されなかったが、2回目の観測では銀河中心のやや南に非常に明るいX線源が見つかった。しかし、さらに10日後の6月11日にNASAのX線天文衛星衛星「チャンドラ」でこの銀河を観測したところ、銀河中心近くのX線源は見えなくなっていた。

NGC 6946のX線画像
NGC 6946の可視光線画像に、「NuSTAR」で得られたX線画像(緑と青の擬似カラー)を重ねたもの。銀河の右上にある青い斑点が超新星SN 2017eaw。その左にある青い斑点と銀河中心部の左下にある緑色の斑点は、超大光度X線源(ULX)というタイプの天体で、それぞれULX-3, ULX-4と命名されている(提供:NASA/JPL-Caltech)

このような、渦巻銀河の渦状腕にしばしば見られる非常に明るいX線源は「超大光度X線源(ultraluminous X-ray source; ULX)」と呼ばれている。6月1日の観測で見つかり、わずか10日後の6月11日の観測で消えてしまったこの天体は「NGC 6946 ULX-4」と命名された。可視光線ではこのX線源の位置にまったく光が見えないことから、この天体が超新星である可能性はほぼ否定されている。

「11日という時間は、これほど明るい天体が出現するのにかかる時間としては非常に短いものです。NuSTARではもっとゆっくりとした時間変化を観測するのが普通で、一つの天体を短い間隔で何度も観測することはあまりありません。今回は幸運にも、ごく短い時間で変化する天体をとらえることができ、非常にわくわくしています」(米・カリフォルニア工科大学 Hannah Earnshawさん)。

Earnshawさんたちの研究チームは、ULX-4のX線がブラックホールから放出された可能性があるかどうかを調べている。ブラックホールに近づいた天体はブラックホールの強い重力によって破壊され、天体の残骸がブラックホールの近くを取り巻いて回るようになる。こうしてできた「降着円盤」と呼ばれるガス円盤は、内側ほど速く回転していて、円盤の最も内側では物質同士の摩擦によって数百万度という高温に熱せられ、X線が放射されるのだ。

ほとんどのULXでは、X線を出す継続時間は長い。ブラックホールのような高密度の天体が長い時間をかけて持続的に物質を飲み込み続けるためだ。ULX-4のような継続時間の短いX線源は非常にまれなので、降着円盤からのX線放射ではなく、ブラックホールによって小さな恒星が短い時間で破壊される「潮汐破壊現象」によって説明がつくかもしれない。

一方、ULX-4は1回限りの現象ではない可能性もある。Earnshawさんたちは、この天体の正体がブラックホールとは別の天体だという可能性についても考察している。考えられる可能性の一つは中性子星だ。中性子星もブラックホールと同じく超新星爆発で作られる高密度天体だが、その親星はブラックホールを生成する超新星爆発の親星よりもやや軽い。中性子星の質量は太陽くらいだが、直径は20kmほどしかなく、ブラックホールと同じように物質を引き寄せて、高速で回転する降着円盤を作る。そのため、中性子星もゆっくりと物質を飲み込むULXになる可能性があるのだ。

ただしこのタイプのULXの場合、X線を放射するメカニズムはブラックホール起源のULXとは少し違っている。中性子星は非常に強い磁場を持つため、この磁力線に沿って物質を中性子星の表面に運ぶ「柱」ができる。この柱に物質が流れることで強いX線が生み出される。しかし、中性子星が非常に速く自転している場合には、逆に磁場が障壁となって物質が星の表面に落ちなくなる。「これは、時速数千kmで回転しているメリーゴーランドに飛び乗ろうとするようなものです」(Earnshawさん)。

したがって、こうした磁場によるバリア効果があると、中性子星は明るいX線源にはなれない。ただし、磁場がわずかに変動していれば、ときおり物質が磁場の障壁をすり抜けて中性子星の表面に落ち込むことができる。このような過程によってX線が突発的に増光・減光すると考えれば、これもULX-4のメカニズムを説明する仮説になりうる。もし今後、ULX-4と同じ位置で再びX線が観測されれば、この仮説を裏付けることになるかもしれない。

「今回の研究成果は、ブラックホールや中性子星に物質が降着するしくみとしてはあまり例のない、極端なケースについて理解を深める第一歩となるものです」(Earnshawさん)。

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