キュリオシティが火星で過去最高濃度のメタンを検出
【2019年7月1日 NASA JPL】
火星のゲール・クレーターで2012年以来探査を続けているNASAの探査ローバー「キュリオシティ」が、同機がこれまでに検出した中でも最大の濃度となる、体積比で21 ppb(10億分の21)という濃いメタンを大気中で検出したことが6月23日に発表された。
「キュリオシティ」が現在探査している尾根「ティール・リッジ」。「粘土ユニット」と呼ばれている地域の一部だ。6月18日に撮影(提供:NASA/JPL-Caltech)
このデータは、キュリオシティの試料分析ユニット「SAM」の波長可変レーザー分光計で得られたものだ。地球では微生物がメタンの重要な発生源になっていることを考えると、今回の発見は生命の存在を示すものでは、という期待もあるが、メタンは岩石と水の相互作用によっても発生する。
キュリオシティにはメタンの源を特定できるような観測装置は搭載されていないため、今回のメタンがゲール・クレーターの限られた場所から出てきたものか、火星の別の場所で発生したものかはよくわからない。
「現状の測定結果では、このメタンが生物由来なのか地質由来なのかを知る手段はありません。また、古い時代に生成されたメタンなのか、それとも最近作られたものなのかというのもわかりません」(NASAゴダード宇宙飛行センター・SAM主任研究者 Paul Mahaffyさん)。
キュリオシティの科学チームは6月22〜23日にかけて引き続きメタンの観測を行い、24日朝にデータを受信した。そのデータによると、メタンの検出量は急激に下がり、1 ppb以下にまで減ってしまったという。これはキュリオシティが日常的に検出しているメタンのバックグラウンド濃度と変わらない値だ。
この結果から、今回検出された過去最大量のメタンは、以前にも観測された突発的なメタンの雲であることが示唆される。これまでにキュリオシティは、移動経路上のあちこちでメタンを検出しており、メタンのバックグラウンド濃度が季節によって変動することもわかっている。しかし、今回のような突発的なメタンの雲がどのくらいの間持続するのか、なぜ季節変動とは違う変化をするのか、といった点についてはまだほとんどわかっていない。
研究を進めるには、これらの手がかりを分析し、もっと多くのメタン測定をする時間が必要だ。また、2016年から観測を行っているヨーロッパ宇宙機関とロシア・ロスコスモスの共同ミッション「エクソマーズ」の軌道周回機「トレース・ガス・オービター(TGO)」のチームなどとも連携する必要がある。TGOは1年以上にわたって火星軌道で観測を行っているが、メタンは検出していない。火星表面と軌道上での観測データを組み合わせれば、火星のメタン源を特定し、火星大気中でメタンガス雲がどのくらい持続するのかを理解するのに役立つだろう。TGOとキュリオシティのメタンのデータが食い違っている原因も説明できるかもしれない。
「メタンをめぐる謎はまだ未解明のままです。引き続き測定を続け、知恵を出し合って、火星大気中でメタンがどのような振る舞いをしているのかを解明しようという機運が今回の発見でいっそう高まっています」(米・ジェット推進研究所 キュリオシティプロジェクト Ashwin Vasavadaさん)。
(文:中野太郎)
〈参照〉
〈関連リンク〉
- Mars Exploration Rover Mission
- キュリオシティ(Mars Science Laboratory)
- オポチュニティ、スピリット
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:2019年 火星
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