アルマ望遠鏡で調べたエウロパの温度分布
米・カリフォルニア工科大学のSamantha Trumboさんたちの研究チームが、アルマ望遠鏡を使った観測によって、木星の衛星「エウロパ」の全表面をカバーする温度地図を初めて得ることに成功した。その解像度はエウロパ表面にある長さ約200kmの構造を見分けられるほどで、地上からの電波観測でこれほどの解像度が得られるのはアルマ望遠鏡ならではだ。
アルマ望遠鏡で得られたエウロパの表面画像。左から2015年11月17日、25日、26日、27日に観測されたもの(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Trumbo et al.)
Trumboさんたちはアルマ望遠鏡でエウロパを4回観測し、1990年代にNASAの木星探査機「ガリレオ」で得られたエウロパの温度モデルと比較した。その結果、エウロパの表面は場所によって温度のむらがあり、北半球の一部には低温の領域が存在することが明らかになった。表面温度にばらつきが生じる理由は、表面にある物質の暖まりやすさが場所によって異なるためではないかと考えられているが、詳しい原因は不明だ。
エウロパの表面には割れ目や裂け目といった複雑な地形がある。これらの地形ができたのは2000万年前から1億8000万年前だと推定されており、太陽系の46億年の歴史から考えると非常に若い。また、表面の薄い氷の層の下には塩水の海が存在していて、岩石質の核と接触しているという強い証拠もある。そのため、エウロパの表面や内部ではいまだ解明されていない熱的な地質活動が起こっていることが示唆されている。
「今回エウロパ全球の熱放射マップをもたらしてくれたアルマ望遠鏡の画像データは本当に興味深いものです。エウロパは、地質学的に活動が活発で地下海を持つ天体だと考えられているので、表面の温度から地質活動の発生場所や範囲を特定できるかもしれません。その意味で表面温度のデータは大変重要です」(Trumboさん)。
エウロパの表面は、最高でも摂氏マイナス160度以上の温度になることはない。このため、エウロパからの熱放射は電波望遠鏡の観測対象になる。光学望遠鏡で惑星や衛星を観測する場合にはこれらの天体が反射した太陽光をとらえることしかできないが、アルマ望遠鏡のような電波望遠鏡やミリ波望遠鏡は、彗星や小惑星、衛星といった温度の低い太陽系天体が放射する熱放射を検出することができる。「エウロパの熱的な性質を調べることは、その表面で起こっている現象を理解するための他にない手段となります」(アメリカ国立電波天文台 Bryan Butlerさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡が描く衛星エウロパの温度地図
- NRAO:Image Release: ALMA Maps Europa’s Temperature - First Spatially Resolved, Complete Thermal Data Set of Jupiter's Icy Moon
- The Astronomical Journal:ALMA Thermal Observations of Europa 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2021/01/13 衝突によって星形成能力を失う銀河
- 2020/12/28 2021年1月上旬 水星と木星、土星が大接近
- 2020/12/24 エウロパの地下海に熱水活動の証拠
- 2020/12/15 2020年12月下旬 木星と土星が大接近
- 2020/12/10 2020年12月17日 細い月と木星、土星が接近
- 2020/12/01 【特集】木星と土星の超大接近(2020年12月)
- 2020/11/12 2020年11月19日 細い月と木星が接近
- 2020/10/30 宇宙初期における銀河たちの急成長
- 2020/10/29 イオの大気の半分近くは火山由来
- 2020/10/28 シアン化水素の観測で調べる海王星の大気循環
- 2020/10/15 2020年10月22日 月と木星が接近
- 2020/10/02 「塩」で解き明かす、大質量星形成のメカニズム
- 2020/09/16 2020年9月25日 月と木星が接近
- 2020/09/11 3連星を取り巻く惑星系円盤の3重構造
- 2020/07/17 2020年7月下旬 明け方の空に全惑星が見える
- 2020/07/07 2020年7月14日 木星がいて座で衝
- 2020/06/26 2020年7月5日 月と木星が接近
- 2020/06/02 2020年6月8日 月と木星が接近
- 2020/05/15 望遠鏡と探査機の連係プレーで木星大気の深部を見通す
- 2020/05/14 2020年5月中旬 木星と土星が接近