強い磁場を持つ、主なき「浮遊惑星」

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褐色矮星として発見された20光年彼方の天体が、木星の13倍の質量しかない「自由浮遊惑星」である可能性が示された。木星の200倍以上もの強さの磁場を持つこともわかっており、「褐色矮星」と「惑星」の境にある天体で強い磁場が生成されるメカニズムの解明にも期待が集まる。

【2018年8月9日 アメリカ国立電波天文台

「褐色矮星」とは、質量は惑星より大きいが、安定して水素の核融合を起こすには軽すぎて自ら光り輝くことがない天体だ。1995年に初めて観測された当初、褐色矮星は電波を放射しないと考えられていたが、2001年にアメリカ国立電波天文台(NRAO)の超大型電波干渉計VLAが褐色矮星からの強い電波放射を検出し、その強い磁気活動が明らかになって以降、一部の褐色矮星では明るいオーロラが発生することが知られている。

地球で見られるオーロラは地球磁場と太陽風との相互作用で発生するが、恒星が近くに存在しない褐色矮星でどのようにオーロラが発生するのかはよくわかっていない。木星とその衛星イオのように、褐色矮星の磁場が周囲の惑星や衛星などと相互作用して発生する可能性も考えられている。

2016年、米・カリフォルニア工科大学(当時所属)のMelodie KaoさんたちがVLAを用いて行った観測から、うお座の方向20光年彼方にある天体「SIMP J01365663+0933473(以下SIMP)」の電波が検出され、この天体が木星の200倍以上もの強い磁場を持つことがわかった。

2017年には別のグループによる研究から、SIMPが2億歳と若く、半径は木星の約1.2倍、質量は13倍程度と軽いこと、表面温度は摂氏約825度であることがわかり、主星を持たない「惑星状自由浮遊天体」である可能性が示された。この「木星の13倍」という質量はちょうど、「巨大なガス惑星」と「褐色矮星」の定義の分かれ目として慣例的に採用される「重水素燃焼限界」(重水素の核融合が停止する質量)にあたるものだ。

さらにこの発表と同じころ、Kaoさんらの再観測から、SIMPの電波のエネルギーや磁場が2016年より強まっていることがわかった。SIMPは惑星質量の太陽系外天体候補として初めて、電波で検出され磁場が計測された天体となったのである。

こうした強い磁場が検出されたことは、「褐色矮星や系外惑星における磁場生成メカニズムを理解する上で大きな課題を突きつけられた」(同大学のGregg Hallinanさん)と言える。Kaoさんによれば、このSIMPで起こっていることを調べれば、同様のメカニズムが褐色矮星だけでなく巨大ガス惑星や岩石惑星などの系外惑星でどのように働いているかを知る手がかりになるという。

さらに、オーロラ電波放射からSIMPを検出した手法は、主星を持たず観測困難な浮遊惑星などの系外惑星を見つける新しい手段としても使えるかもしれない。

SIMP J01365663+0933473
「SIMP J01365663+0933473」の想像図(提供:Caltech/Chuck Carter; NRAO/AUI/NSF)

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