火星の斜面の暗い筋模様、液体ではなく砂の可能性
【2017年11月27日 NASA JPL】
2011年、NASAの火星周回探査機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」が火星の多くの斜面に暗い筋模様を発見した。以来、この筋模様は、乾いた惑星であるはずの火星上に予想外に液体の水が存在する可能性を示すマーカーとして、強い興味と論争の的となってきた(参照:「液体の水を示す証拠? 火星の黒い筋模様」)。
数千個もの筋模様は「Recurring Slope Lineae(RSL、「繰り返し現れる斜面の筋」の意味)」と呼ばれ、これまでに50か所以上の岩石の多い領域で確認されている。RSLは暖かい季節になると広がって徐々に斜面を下り、冬になると消え、次の年に再び現れる。発生プロセスはわかっていないものの、これまでは水が滲むために斜面が暗くなると考えられてきていた。地球では湧き水が同じ振る舞いを見せる。
火星の南半球にあるクレーター内の斜面に現れたRSL(提供:NASA/JPL-Caltech/UA/USGS)
米・宇宙地質学科学センターのColin Dundasさんたちの研究チームはMROに搭載の高解像度カメラ「HiRISE」の探査データから、10地点に現れた151本のRSLを調べた。そして、この模様は砂や塵といった細かい粒子が斜面を滑り落ちることによって作られるものだという新解釈を発表した。「RSLは液体の水の流れかもしれないと考えてきましたが、斜面を流れるのは乾いた砂であるという予測の方が適しているといえます」(Dundasさん)。
Dundasさんたちの解釈のポイントは、RSLが現れる斜面のほとんどは傾斜が27度以上の急斜面に限られているということだ。もしRSLが液体の水によるものであれば、それほど急でなはい斜面でも広がるはずである。「RSLは緩やかな斜面には流れません。RSLの長さは斜面の角度と密接な関係にあり、これは偶然の一致ではあり得ません」(HiRISEの主任研究員 Alfred McEwenさん)。
また、RSLが砂粒の流れであるという解釈は、冷たく薄い大気しかない現在の火星の表面には液体の流れはないという従来の理解にも一致している。
正体について新解釈が発表された一方、RSLがどのように季節の変化と共に出現して流れ始め、徐々に成長し、消えてしまうのか、などの特徴に関しては謎のままだ。たとえば、季節変化に伴う塩と大気中の水分との作用によるものという説明が考えられるが、その場合なぜRSLが一部の斜面だけに現れ、他では見られないのかという点が問題となる。
「RSLはおそらく、火星環境に特有の何らかのメカニズムで形成されているのでしょう。見方を変えれば、火星の振る舞いを理解するための機会を提示しているといえます」(McEwenさん)。
〈参照〉
- NASA JPL:Recurring Martian Streaks: Flowing Sand, Not Water?
- Nature Geoscience:Granular flows at recurring slope lineae on Mars indicate a limited role for liquid water 論文
〈関連リンク〉
- 「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:2017年 火星
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