原始星を取り巻く大型有機分子の回転リング、化学組成に多様性

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アルマ望遠鏡を用いた原始星の観測から、星を取り巻いて回転するリング構造が見つかった。リングは原始星に落下してきたガスと惑星系を作る回転円盤の境界面とみられ、大型有機分子が豊富に含まれているが、有機物の種類は原始星によって異なることも明らかになった。

【2016年6月30日 東京大学アルマ望遠鏡

恒星は星間ガスが自己重力で収縮して形成されるが、その形成過程において、誕生したばかりの星 (原始星) の周りには回転するガスの円盤(原始星円盤)ができる。

東京大学の大屋瑶子さん、理化学研究所の坂井南美さんたちの研究チームは、へびつかい座の方向約400光年にある太陽程度の質量をもつ、若い原始星「IRAS 16293-2422 A」のアルマ望遠鏡による観測データを解析し、原始星を取り巻くエンベロープガスから原始星円盤に至る物理的構造と化学組成を明らかにした。

原始星とその周りのガスの様子
原始星とその周りのガスの様子。原始星を中心に半径50天文単位程度の原始星円盤があり、さらに外側を半径200天文単位程度のエンベロープガスが覆っている。クリックで拡大(提供:東京大学山本研究室、以下同)

まず、エンベロープガスと原始星円盤の境界上に、飽和有機分子(メタノール、ギ酸メチル)が半径50天文単位(太陽~土星の約5倍、約75億km)のリング状に分布し、原始星の周りを回転していることを発見した。これは、星間空間で形成され星間塵に蓄えられた有機分子が、境界面で温められ蒸発してきたことを意味している。

IRAS 16293-2422 Aはこれまでに、原始星近傍の暖かい領域に大型有機分子(メタノールなど6原子分子程度以上の有機分子)を豊富に含むことが報告されていたが、その分布と起源は不明だった。今回の結果は、星間空間で形成された有機分子が確かに原始星円盤までもたらされていることを、観測的に初めて明らかにした重要な成果だ。

また、これまでに観測研究を行ってきた複数の原始星近傍におけるガスの構造や化学組成の変化の比較から、円盤の多様性も明らかにされた。

たとえば、おうし座にある若い低質量原始星天体「L1527」はエンベロープガスに炭素鎖分子を多く含んでおり、IRAS 16293-2422 Aとは化学的特徴が大きく異なる。L1527でもエンベロープガスから原始星円盤にかけて化学組成の劇的な変化がとらえられているが、飽和した大型有機分子はまったく見られなかった。L1527では炭素鎖分子が境界面の外側だけに存在し、境界面より内側で星間塵に凍りついてしまっているとみられる。

原始星付近のガスの化学組成の模式図
原始星付近のガスの化学組成の模式図

エンベロープガスの化学組成が原始星円盤に受け継がれること、原始星によって原始星円盤へもたらされる有機分子の種類が大きく異なることを初めて明らかにした今回の成果により、従来不明であった原始星円盤の形成とそこでの物質進化の理解が大きく進むだろう。

さらに、原始星円盤では将来、惑星系が形成されるので、化学組成の特徴は惑星系へと受け継がれていくことが考えられる。本研究は太陽系の物質的起源を理解する上で新しい視点を提供するものであり、太陽系が宇宙の中で普遍的なものであるか、特殊な存在であるのかを判断する重要な鍵となると期待される。