宇宙空間で電波を生み出す陽子の集団を発見

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ジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データから、地球周辺の宇宙空間で陽子が電波を生み出し、その周波数を変動させる様子がとらえられた。

【2021年7月16日 名古屋大学宇宙地球環境研究所

地球近傍の宇宙空間(ジオスペース)では様々な電波が自然発生しており、その電波がプラズマ(陽イオンと電子に分かれた状態にあるガス)の分布やエネルギーを変えてしまうことが知られている。特に周波数1Hz程度の「電磁イオンサイクロトロン波動(EMIC波)」と呼ばれる電波は、放射線(放射線帯の電子)の分布を変えたり、オーロラの発生に寄与したりすると考えられている。この電波はプラズマの中で発生していることが理論的に予想されていたものの、発生の瞬間をとらえるのは難しかった。

ジオスペースにおけるEMIC波発生の様子
ジオスペースにおける「電磁イオンサイクロトロン波」発生の様子を表すイラスト。(左)地球近傍の宇宙空間を観測するジオスペース探査衛星「あらせ」の想像図。(右上)周波数が下がるEMIC波と陽子の共鳴、(右下)周波数が変わらないEMIC波が発生した時の陽子との共鳴。どちらも密度の不均一(山)が観測されるが、周波数が一定の場合から降下するものに変化した時、山が位相角(図中波動磁場Bwと粒子の山のなす角度)の小さい方に移動することが示唆されている。画像クリックで拡大表示(提供:ERG science team)

名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の小路真史さんたちの国際共同研究グループは、電波とプラズマの位相関係からプラズマの分布の揺らぎを特定し、相互のエネルギー授受を求める新しい解析手法を開発している。2017年にはこの手法により、NASAの磁気圏観測衛星「テミス」の観測データから電磁イオンサイクロトロン波動が発生する瞬間をとらえることに成功していた(参照:「宇宙プラズマから電波が発生する瞬間を特定」)。

小路さんたちはこの手法をJAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データにも適用して解析を行い、EMIC波が数keV(キロ電子ボルト)のエネルギーを持つ陽子により発生する瞬間をとらえることに成功した。さらに、電波が発生することで陽子の分布が変化して、陽子のかたまりによってEMIC波の周波数が降下する様子も見つかった。このように周波数が変動する仕組みも理論的に予想されていたが、観測で実証されたのは初めてとなる。

「あらせ」が観測したEMIC波の磁場の強さと陽子の時間変化
(上)「あらせ」が観測したEMIC波の磁場の強さの時間変化。(下)「あらせ」が観測した宇宙空間の陽子の時間変化。縦軸は(上のイラスト内の右図に示した)EMIC波との位相角度を表す。色は陽子の数の多さを示し、各時刻の最大値を点で示している。点線は、電波の周波数が下がる時間前後から位相角度が中心(180度)付近から小さい値に移る様子を示す(上のイラスト内の右図における陽子の密度の山の移動に対応)(提供:Shoji et al., 2021より改訂)

宇宙プラズマには、自発的に周波数が変調する電波が多く存在しており、そうした電波と地球周辺環境の関係、さらにオーロラなどの地球への影響を明らかにする上で、開発された新手法が今後役立つと期待される。

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