宇宙放射線に6年曝露された精子からマウス誕生

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フリーズドライ状態にしたマウスの精子を国際宇宙ステーションで長期間保存する実験により、宇宙放射線に6年間さらしてもサンプルの生殖能力が損なわれていないことが確認された。

【2021年6月16日 JAXA

人類が月面基地やスペースコロニーなどで永住するようになった場合、そこで暮らす人々や家畜の生殖・繁殖の問題は避けて通れない。無重力や宇宙放射線といった環境が子孫に影響を与えると懸念されているものの、宇宙で哺乳類を飼育することは難しいため、生殖の実験はほとんど行われていなかった。

山梨大学発生工学研究センターの若山清香さんをはじめとする研究グループは、低コストで宇宙での難しい操作を必要としない実験として、フリーズドライ(凍結乾燥)状態にした精子を国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で保存し、DNAの損傷や子孫への影響を検証することにした。

実験では合計66匹のマウスのオスから精子を採取し、フリーズドライにしてから選別した上で6つの箱に分けた。このうちの3箱が2013年8月4日にISSに打ち上げられ、「きぼう」内の冷凍庫でそれぞれ9か月、2年9か月および5年10か月間保存された。残りの3箱は比較のために地上の冷凍庫で条件をそろえて保管された。

ISSで9か月間保存された箱は2014年5月に地上に戻り、正常に子マウスが生まれることが確認されている(参照:「世界初、宇宙精子由来のマウス誕生」)。一方、ISSにおける生物実験としては最長となる5年10か月間にわたる保存を終えた箱は2019年6月に回収された。線量計でこの精子の宇宙放射線被曝量を測定したところ、合計被曝量は吸収線量869.8mGy(線量当量1302.9mSv、1日当たり0.41mGy(0.61mSv))で、地上で同期間保管された精子の約170倍だった。

分析の様子
(上左)フリーズドライ精子が入ったアンプル瓶、(上中)箱に分けられたフリーズドライ精子、(左下2枚)分析の様子、(右)JAXA筑波宇宙センター(提供:JAXA/山梨大学、以下同)

宇宙放射線による精子のDNAへのダメージを分析したところ、重度のDNA損傷を示す染色体分配異常は宇宙で保存された場合に増える傾向が見られた。だが細かいDNAダメージや受精能力に関しては、宇宙と地上との差や保存期間による差は見られなかった。これらの精子を人工授精させた受精卵のふるまいには多少の変化があったものの、マウスのメスへ移植した場合の出産に至る率はどの箱でも12~13%程度で差は見られなかった。

宇宙で6年間保存した精子からは合計168匹のマウスが生まれた。いずれも外見は正常で、網羅的遺伝子発現解析でも異常は見られない。また、一部のマウスについては交配させて健康であることや、子や孫が生まれることも確認している。地上における照射実験では、最大30Gyまで照射した精子からも子マウスが誕生した。これは今回計測されたISSでの被曝量に換算すると、200年間保存することに相当する。

「Space Pup」プロジェクトの流れ
「Space Pup」プロジェクトの流れ。フリーズドライ精子が入ったアンプル瓶をISSへ打ち上げ、1~6年保存後に回収し、地上で顕微授精を行ったところ、マウスが多数生まれた

今回の実験は、保存精子を使った宇宙での生殖が可能であることを初めて示すものである。また、人類が新天地へ進出する際には、この技術を使って多数の精子を運ぶことで、各動物種の遺伝的多様性を保つことができると考えられている。

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