10年間隔の画像を比較して超新星爆発の年代を逆算

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ハッブル宇宙望遠鏡が10年の時を隔てて撮影した超新星残骸1E 0102.2-7219は、わずかに広がっていた。そこから逆算すると、爆発は3世紀ごろに地球で観測できた可能性がある。

【2021年1月22日 NASA

人類史上ではいくつかの超新星が肉眼で目撃された記録があるが、それよりはるかに多くの超新星残骸が天の川銀河や近傍の銀河で見つかっている。爆発の瞬間が記録されていない超新星でも、残骸が拡散する速度を調べることができれば、そこから爆発が地球で見えたはずの年代を逆算できるはずだ。その速度を見積もるには、何年かの間をあけて超新星残骸を高精細に撮影して広がり方を見るのが一番の方法であり、30年以上にわたって宇宙空間からあらゆる天体を撮影し続けているハッブル宇宙望遠鏡(HST)が大いに活躍できる分野である。

矮小銀河の小マゼラン雲の中にある「1E 0102.2-7219」(以降E0102)は、1981年にNASAのX線天文衛星「アインシュタイン」の観測で発見された超新星残骸だ。地球から19万光年と近距離にあるため、超新星爆発の様子が肉眼で観察できたかもしれない。爆発が地球で見えた年代については、2000年前や1000年前といった推定がある。これはHSTの観測に基づいたものだが、異なる撮像装置による画像を比較しているため、誤差が大きかったという。

超新星残骸「1E 0102.2-7219」
HSTによる超新星残骸「1E 0102.2-7219」。酸素原子が発する光をとらえていて、私たちに近づいているように見える部分は青、遠ざかっている部分は赤と塗り分けられている(提供:NASA, ESA, STScI, and J. Banovetz and D. Milisavljevic (Purdue University))

米・パデュー大学のJohn BanovetzさんやDanny Milisavljevicさんたちの研究チームは、HSTの「ACS(掃天観測用高性能カメラ)」が撮影した画像のアーカイブから、10年の時をおいてE0102を撮影した2つの画像を見つけ出した。チームは外側へ飛んでいるオタマジャクシのような塊を45個見つけ、そのうち途中で星間物質にぶつかったりせずに最初のスピードを維持していると思われる22個を選び、詳細に調べた。

塊の速度から逆算すると、E0102の超新星爆発が地球で目撃できたのは約1700年前、3世紀ごろだという。西洋ではローマ帝国の衰退期、日本で言えば弥生時代から古墳時代への移行期だ。だがE0102の方向は地球の南半球からでなければ観察できず、それらしき記録は見つかっていない。

この超新星爆発を起こした恒星は中性子星になったと考えられる。最近のX線による観測で、この中性子星と思われる天体が見つかっていたが(参照:「光のリングから同定された、孤立した中性子星」)が、その位置は、Banovetzさんたちが計算した爆発の中心地とは大きくずれている。X線で見つかった中性子星が本物だとすれば、爆発以来秒速1070kmという極端な高速で飛び続けていることになる。そのため、BanovetzさんはX線で見つかったのは中性子星ではなく、小さな塊が輝いているだけなのではないかという見解を示している。

超新星残骸「1E 0102.2-7219」の紹介動画「Hubble Time-Lapse Video Reveals Supernova Remnant Expansion」(提供:NASA Video)

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