火星の核は地球より小さめ
【2020年1月28日 東北大学】
地球がどんな物質でできているか、また地球の内部がどのような構造になっているのかについては、岩石のサンプルや地震波の伝わり方などからかなり詳しくわかっている。地球の表面には主にケイ酸塩でできた厚さ数km~数十kmの「地殻」があり、その下には厚さ2900kmほどの「マントル」と呼ばれる層がある。マントルの下には「外核」があり、鉄やニッケルが液体の状態で存在している。一番内側が「内核」で、固体の鉄・ニッケルからなる。
一方、地球以外の岩石惑星(水星・金星・火星)については、これまで内部の探査や地震観測が行われた例がほとんどないため、惑星内部の様子について確実なことはほとんどわかっていない。
火星はこれまでに多くの探査ミッションが行われており、また火星から地球に飛来した「火星隕石」も採取されているため、地球の次に多くの情報が得られている岩石惑星だ。それでも、火星の化学組成や内部構造の詳細については不明な点が多い。
現在広く受け入れられている理論では、太陽系の元となった原始惑星系円盤のガスの組成は、炭素質隕石の一種である「CIコンドライト」の組成に近いものだったと考えられている。これは、CIコンドライトに含まれる重い元素の比率が太陽の大気の組成と非常によく一致しているためだ。
そのため、これまでに行われてきた火星の化学組成の研究でも、火星の重元素の組成はCIコンドライトにほぼ等しいという仮定に基づいているものが多かった。しかし、最新の太陽大気の観測や隕石の成分分析の結果からは、CIコンドライトの重元素の組成は必ずしも火星の重元素組成に似ているとはいえないという見方も出てきている。
東北大学大学院理学研究科の吉崎昂さんと東北大学ニュートリノ科学研究センター・米メリーランド大学のWilliam F. McDonoughさんは、CIコンドライトの代わりに、過去に採取された火星隕石や火星探査機の観測データに基づいて、新たに火星の化学組成と内部構造のモデルを導き出した。
原始惑星系円盤の高温のガスが冷えて、惑星の材料となる塵の微粒子ができる際には、融点や沸点の高い「難揮発性」の元素から先に固体になっていく性質がある。一番先に固体物質に取り込まれるのはアルミニウムやチタン・カルシウム・希土類などで、その次に鉄やニッケル、さらにナトリウムやカリウム・硫黄などを含む物質が固体になる。
吉崎さんたちの計算によると、火星ではカリウムや硫黄など、中程度の揮発性を持つ元素が地球よりも多くなるという結果が得られた。また、地球の金属核が地球質量の約1/3を占めるのに対して、火星の金属核は火星質量の1/6程度にしかならないこともわかった。これは、火星では鉄やニッケルがあまり核に取り込まれず、酸化鉄などを作ってマントルや地殻に取り込まれやすいことを示しており、火星が地球よりも酸化的な環境にあったことを示唆する結果だ。
2018年に火星に着陸したNASAの探査機「インサイト」が現在、火震(火星の地震)の観測や、火星の表面を掘削して史上初めて火星内部を直接観測するなどの活動を行っている。インサイトの探査によって火星の核とマントルの境界面の深さがわかれば、今回構築されたモデルの検証にもつながり、火星の化学組成をより正確に決めるのにも役立つと期待される。
研究チームでは今後、水星や金星の化学組成や内部構造についても同じように新たなモデルを構築することを目指しているという。
〈参照〉
- 東北大学:火星の中身を解き明かす 「赤い惑星」の化学組成と内部構造のモデル化に成功
- Geochimica et Cosmochimica Acta:The Composition of Mars 論文
〈関連リンク〉
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