シミュレーションで推算、フォボスに積もる火星表層物質の量

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火星への小天体衝突で衛星「フォボス」に物質が運ばれる現象のシミュレーション研究から、フォボスには従来の見積もりの10倍以上の火星表層物質が混ざっていることが示された。

【2020年1月17日 東京工業大学

日本は「はやぶさ2」に続く次世代サンプルリターン計画として、火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」を対象とした火星衛星探査計画「Martian Moons eXploration; MMX」を進めている。2024年に探査機を打ち上げ、2029年に衛星のサンプルが地球に帰還する計画だ。

2つの衛星のうち火星に近いところを公転しているフォボスの表土には、火星本体の表層物質が混入している可能性がある。火星に小天体が衝突することによって表層物質が吹き飛ばされ、その一部がフォボスまで到達し、降り積もるためだ。MMXでフォボスの表土を採取すれば、同時に火星表層物質も採取できるかもしれない。

火星への小天体衝突と破片がフォボスへ輸送される過程のイメージ図
火星に無数の小天体が衝突し、その破片がフォボスへと輸送される過程のイメージ図(提供:リリースページより、以下同)

東京工業大学地球生命研究所の兵頭龍樹さんたちの研究チームは、5億年前から現在までの間に火星で発生した様々な種類の小天体衝突によって火星からフォボスへ輸送される火星物質の量を、高解像度の衝突計算と破片の詳細な軌道計算で見積もった。

その結果、従来考えられていた量の10~100倍もの火星表層物質がフォボスへ運ばれたことが明らかになった。また、小天体衝突は火星形成後から恒常的にあらゆる方向で起こってきたが、その衝突によって火星の全球の表層物質がフォボスへ運ばれ、表面に均質に混入することも示された。

フォボスへ輸送される火星表層物質の量
小天体衝突によってフォボスへ輸送される火星表層物質の量。Zunil~Mojaveは火星表面上に存在する直径10km以上の新しいクレーター(10万年以内)を作った衝突による輸送量、Randomは最近5億年間に直径100km以下のクレーターを作った無数の小天体衝突によって輸送される総量、260kmは最近5億年間で少なくとも一度はあったと考えられる直径260kmのクレーターを作る衝突による輸送量で、Totalがこれらの合計値を表す。右の軸は、輸送された火星物質がフォボス表層1mに均質に混ざった場合の、火星物質の割合

研究チームの見積もりによると、フォボスからサンプルを10g採取すれば、その中に少なくとも30粒以上の火星粒子が含まれていると考えられる。これはMMX計画で目指す採取量だが、これだけの量があれば火星上で現在知られている7つの地質年代区分すべてのサンプルが得られる可能性が高いとみられている。

NASAとヨーロッパ宇宙機関が進める火星探査計画「Mars2020」では火星本体からのサンプルリターンも目指しているが、ある特定の領域における限られた地質と時代区分にしかアクセスできず、帰還も2031年とMMX以降の予定だ。今回の研究結果は、衛星からのサンプルリターンで火星の歴史の包括的理解につながる多様な物質が得られる可能性が高いことを示すものであり、MMX計画に質の面での科学的価値をもたらすものとなる。