インサイトが「火震」らしい信号を初検出

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NASAの火星探査機「インサイト」が火星の地震と思われる震動を初めて観測した。

【2019年5月7日 NASA

「インサイト」は2018年11月26日に火星に着陸し、12月19日に地震観測装置「SEIS」を火星表面に設置した。インサイトの目的の一つは、「火震(火星の地震)」を観測することで火星の内部についての情報を得ることだ。この「SEIS」で、火星着陸から128火星日が経った4月6日に弱い地震波が検出された。火星表面の風などによる震動ではなく、火星の内部で発生したと思われる震動が記録されたのはこれが初めてだ。研究チームでは、この地震波の発生源を正確に突き止めるために分析を続けている。

SEIS
「インサイト」の火星着陸後110火星日目に撮影された地震計「SEIS」。インサイトのロボットアーム(画面上)によって着陸機近くの地面に設置された。半球状のカバーは強風や温度変化を避けるためのシールド(提供:NASA/JPL-Caltech)

「今回得られたインサイト初の観測結果は、NASAのアポロ計画から始まった地球外天体の地震の研究を引き継ぐものです。これまではずっとバックグラウンドノイズしか観測されていませんでしたが、この最初のイベントは『火震学』という新たな科学分野の幕開けとなるものです」(インサイトミッション主任研究員 Bruce Banerdtさん)。

4月6日にSEISで検出された震動を音に変換した動画。最初のノイズは火星の風によるもの。2番目の震動が火震と思われる信号で、3番目の震動は画像を撮影するロボットアームの動作によるノイズ。Lチャンネルの音声はSEISの超広帯域センサー、Rチャンネルは短周期センサーで検出された信号を示す。元データを60倍速にしている(提供:NASA/JPL-Caltech/CNES/IPGP/Imperial College London)

今回検出された地震波はかなり弱かったため、ここから火星内部に関する確かなデータを導くことはできていない。火星の表面はきわめて静穏なため、「SEIS」を使えば非常に弱い地震動も拾い出すことができるが、今回のイベントと同じ強さの揺れがもし地球で発生したとしても、海や気象現象で日々発生しているたくさんの小さな震動でかき消されてしまうだろう。

「今回検出された地震動は、揺れの大きさや継続時間が長いという特徴が、アポロミッションで検出された『月震』の特徴と一致しており、わくわくさせるデータです」(NASA本部惑星科学部門長 Lori Glazeさん)。

NASAのアポロ計画では、宇宙飛行士が5基の地震計を月面に設置し、1969年から1977年までの観測期間中に数千回の月震を記録した。これによって、月にも地震活動があることが明らかとなった。異なる物質の中を地震波が伝わると、物質の境目で地震波の速度が変わったり、波が反射されたりする。これを利用すると月の内部構造についての情報を得ることができ、月が形作られた過程をモデリングすることに役立つ。NASAは現在、2024年までに人間を再び月へ送り込むことを計画している。これは将来の有人火星探査の基礎にもなるものだ。

インサイトの地震計を使えば、火星についても月と同様のデータを集めることが可能だ。火星の深部を研究することで、地球や月などの岩石質の天体がどのようにして形作られたのかを解明できると期待されている。

インサイトでは今回のイベント以外に、3月14日(105火星日)、4月10日(132火星日)、4月11日(133火星日)にも地震動が検出されている。これらは「SEIS」の高感度センサーで検出され、4月6日のイベントよりもずっと弱く、発生源はよくわかっていない。研究チームではこれらのイベントについても発生源を特定する分析を続けている。

地球の地震が、地殻を構成する「プレート」の運動で生じた断層によって引き起こされることはよく知られている。火星や月にはプレートは存在していないが、これらの天体でも地震は発生している。これらの天体で起こる地震は、時間とともに天体が冷えて収縮し続けることで生み出される応力が原因だと考えられている。この応力が時間とともに強まり、やがて地殻を破壊して地震を引き起こすのだ。

「私たちはこのような信号が見つかることを何か月も待ち望んでいました。今回の検出で、火星が今も地震学的に活発であることが示されたことに非常に興奮しています。データの分析結果を公開するのが楽しみです」(仏・パリ地球物理学研究所 SEISチーム Philippe Lognonnéさん)。

(文:中野太郎)

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