奇妙な木星族彗星、本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー

このエントリーをはてなブックマークに追加
今年2月に地球に最接近した本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星の赤外線観測から、この彗星は一酸化炭素よりもメタンが多いという珍しい特徴を持つことが明らかになった。

【2017年11月28日 NASA

1948年に本田実さんたち3人が相次いで発見した本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星(45P)は、太陽の周りを5年ほどで公転する短周期彗星の一つである。昨年末に太陽に、今年2月に地球に近づき、双眼鏡で見える明るさとなって天文ファンの観測や撮影の好対象となっていた。

本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星
2016年12月にナミビアで撮影された本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星(提供:Gerald Rhemann)

NASAゴダード宇宙センターのMichael DiSantiさんたちの研究チームは米・ハワイにある赤外線観測装置IRTFを使って、この彗星の気体9種類を分光観測した。気体は彗星の核を構成している氷や岩、塵などが混ざった塊から生じており、その氷には彗星の歴史に関する手がかりが含まれていると考えられている。

観測の結果、45P彗星では凍った一酸化炭素がほぼ枯渇していることが明らかになった。彗星が太陽に接近して暖められると一酸化炭素は簡単に宇宙空間へ逃げ出すため、公転周期の短い45P彗星でこの物質が少ないこと自体は不思議ではない。しかし、同様に逃げ出しやすい物質であるメタンが、45P彗星には豊富にあることも明らかになり、45Pは一酸化炭素の氷よりもメタンを多く含む珍しい彗星の一つだとわかった。

メタンが豊富な理由として、メタンが氷に閉じ込められたという可能性もあるが、研究チームは、一酸化炭素が水素と反応してメタノールを形成したかもしれないと考えている。45Pでは平均よりも凍ったメタノールの割合が高いことが明らかになったからだ。

いつ一酸化炭素と水素の反応が起こったのかという別の疑問が出てくるが、もし、メタノールが45Pの形成以前に、原始的な氷の粒子上で形成されたのなら、彗星は変化がなかったということになる。反対に、コマにおける一酸化炭素とメタノールの量は、時間の経過と共に変化してきたのかもしれない。特に木星型彗星(5~7年周期の彗星)は、オールトの雲を起源とする彗星に比べて、太陽の近くにいる時間が長いからだ。

太陽系の果てにあるオールトの雲を起源とする長周期彗星の氷と比べると、45P彗星のような木星族彗星の氷についてはまだわかっていないことが多い。木星族彗星で今回の対象となったような物質を検出するのは非常に難しく、これまでの研究は数例しかないため貴重な成果だ。

研究チームは、今回の観測結果が似たような彗星の間でどれほど典型的なのかを明らかにしようとしている。45Pは、2017年から2018年の間に地球から研究可能な5つの短周期彗星のうちの1つ目だ。今年は45Pに続いてエンケ彗星(2P)とタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星(41P)が観測され、来年の夏から秋にはジャコビニ・チンナー彗星(21P)が、2018年末にはウィルタネン彗星(46P)が、それぞれ観測対象となる。

「この研究は画期的で、木星型彗星中に存在する分子種の混合物と、太陽の周りを何度も周回したあとの違いに関するわたしたちの知識を広げてくれます」(アメリカ国立科学財団 Faith Vilasさん)。