星間空間で初めて見つかったキラル分子

このエントリーをはてなブックマークに追加
巨大な星形成領域「いて座B2分子雲」で、キラル分子である酸化プロピレンが見つかった。隕石や彗星など太陽系内では見つかっていたキラル分子だが、星間空間で検出されたのは初めてのことだ。

【2016年6月20日 NRAO

右手とその鏡像である左手を同じ向きに重ねると、ぴったりとは重なり合わない。こうした性質のことを「キラリティー(掌性)」と呼び、そうした性質を持つことを「キラル(カイラル)」と呼んで「手はキラルである」と表現する。

分子にもキラルなもの(右手型と左手型があるもの)が存在している。キラル分子は地球上で発見される隕石や彗星など太陽系内では検出されているが、星間空間で検出されたことはこれまでなかった。

米・国立電波天文台のBrett McGuireさんたちの研究チームは天の川銀河の中心方向にある巨大な星形成領域「いて座B2分子雲」を米・グリーンバンク電波望遠鏡と豪・パークス電波望遠鏡で観測し、キラル分子である酸化プロピレン(CH3CHOCH2)を検出した。星間空間でのキラル分子発見は初めてのことだ。

いて座B2分子雲と酸化プロピレン分子の構造イラスト
(中央の円)いて座B2分子雲。(上)酸化プロピレン分子の構造イラスト。キラルの右手型(R、ラテン語のrectus=右に由来)と左手型(S、sinister)が描かれている。(下)天の川銀河中心のいて座A*(提供:B. Saxton, NRAO/AUI/NSF from data provided by N.E. Kassim, Naval Research Laboratory, Sloan Digital Sky Survey)

「酸化プロピレンは、これまで宇宙で発見された中では最も複雑な分子です。今回の発見は、どこでどのように右手型・左手型といった差が発生し、なぜ一方がもう一方よりもわずかに多く存在するのかということを調べる研究への扉を開くものです」(米・カリフォルニア工科大学 Brandon Carrollさん)。

地球上の生物はDNAの二重らせん構造などを含め、キラル分子のうちどちらか一方だけを使っているが(ホモキラリティー)、どのようにして右手型・左手型のいずれかだけに頼るようになったのだろうか。「太陽系内の隕石にはキラル分子が含まれていて、その年齢は地球よりも長いものです。また彗星にもキラル分子が含まれています。こうした小天体中のキラル分子にもともと偏りがあり、それが地球に生命の源を運んできたことで、今日見られるような生物のホモキラリティーが生じたのかもしれません」(Carrollさん)。