水星の歴史を表面地形の凹凸分布で調べる

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水星の全球にわたる表面地形の凹凸分布が作成され、クレーターなどとの相関関係が調べられた。地球型惑星の地質学的進化の研究における、重要な基礎となる成果だ。

【2026年3月18日 RISE月惑星探査プロジェクト

地球の表面に山や谷といった凹凸があるように、月や火星、水星の表面にも、火山活動や天体衝突などによる大小のクレーターや溶岩が固まった平らな場所といった凹凸の地形が見られる。この凹凸の度合いは、惑星科学の用語で「ラフネス」と呼ばれる。

ラフネスの「水平波長」(地形が隆起した最も高い部分から次の隆起した高い部分までを結んだ横方向の長さ、クレーターでは縁から縁までの距離)という指標は、天体の地形の進化を理解する上で非常に便利で、とくに「各地域がどのような地質進化を経てきたのか」を知るための重要な情報となる。

たとえば、直径100kmを超える巨大クレーターが形成されると、その放出物により周囲にキロメートルサイズの二次クレーターができ、巨大クレーターには長波長のラフネスが、二次クレーターには短波長のラフネスがそれぞれ生じる。このクレーター形成から時間が経つと、地滑りや火山活動など様々な要因によって二次クレーターは埋まり、短波長のラフネスは減少するが、巨大クレーターの長波長のラフネスは変わらず残る。このように、二次クレーターの新旧によってラフネスの水平波長の依存性が異なるので、ラフネスの分布から、地質進化の地域ごとの差を定量的に評価できるのだ。

クレーター周囲のラフネスの時間変化
(左)水星の北半球にある直径約100kmのスティーグリッツ・クレーターと周囲の地形。(右)クレーター周囲のラフネスの時間変化を表すイラスト。クレーターの形成から時間が経つほど、短波長ではラフネスが減少して波長依存性が変化するが、巨大クレーターによる長波長のラフネスは変わらず残る(提供:RISE月惑星探査プロジェクト)

ドイツ航空宇宙センターの西山学さんたちの研究チームは、水星探査機「メッセンジャー」が取得した画像データに基づく地形モデルを利用して、水平波長5kmから100kmという幅広い範囲で、世界初の水星全球ラフネスマップを作成した。水星に対する高度計を用いたマッピングは領域が限られていて、地形モデルと高度計データとの間には系統的な差があるが、今回の研究ではその差を補正している。

水星のラフネスマップと主な地質的特徴
(左)水平波長10kmでの水星のラフネスマップと主な地質的特徴の関係。(右)「メッセンジャー」のデータから作成された水星の画像。左図の90W~90Eに対応(提供:(左)Nishiyama et al. 2026をベースに改変、(右)NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

このマップにより、様々な地質的特徴が可視化された。たとえば、噴火で流出したマグマが冷えて固まって形成された「溶岩ユニット」のうち、比較的新しい"Smooth plain"と呼ばれる部分は、溶岩流で表面地形が平らになっているためラフネスが著しく低い。また、クレーターが新しいほどラフネスは高く、最も高いのは「カオス地形」と呼ばれるエリアだ。ここは、水星最大のクレーター地形「カロリス盆地」の真裏側にあたり、カロリス盆地形成時の放出物がカオス地形形成に関与した可能性が示唆される。

ラフネスマップと地殻の厚さ分布との比較では、地殻が厚い場所ほど長波長のラフネスが高いという傾向が明らかになった。地殻が厚いほどマグマが表面に噴出しにくいことを示すと考えられ、月と類似した傾向だという。水星に多数見られる断層地形の分布もラフネスと関係していて、断層は冷却によって形成されたとみられることから、水星の内部進化の理解につながる。

今年11月には探査機「ベピコロンボ」が水星に到着する予定だ。メッセンジャー以来約10年ぶりの探査から、水星の理解がいっそう進むことが期待される。