人工衛星や宇宙ごみによる1秒未満の閃光を大量検出

このエントリーをはてなブックマークに追加
東京大学木曽観測所の最新鋭カメラ「トモエゴゼン」で、地球周回軌道上の物体が0.5秒間だけ輝く閃光現象が約1500個発見された。全天で毎日1000万回も発生している計算だ。

【2025年12月3日 東北大学

宇宙は不変ではなく、超新星爆発のような突発現象が数多く発生する。このような「短時間で変化する宇宙」を研究する「時間領域天文学」が近年活発に探究されている。短い時間スケールの現象としては、主に数日から数か月間明るく輝く天体現象がいくつか知られているが、これよりさらに短い時間で起こる可視光線の現象は、これまで観測が難しかった。特に、秒単位の間隔で空の広い領域を常時監視することは困難なため、1秒程度しか続かない天体現象には未知の部分が多い。

短時間の天体現象を探る際には、人工衛星やスペースデブリ(「宇宙ごみ」)も障害となる。こうした人工物が太陽光を反射して引き起こす突発的な閃光は、遠方宇宙で起こる突発現象と区別しづらい。人工物体がどの程度の頻度で閃光を放つのかはこれまでほとんどわかっておらず、可視光線での「秒スケール宇宙」の研究が進まない原因の一つとなっていた。

東北大学の田中雅臣さんたちの研究チームは、0.5秒間隔で夜空を撮影する、世界で最も高感度な「広域動画観測」を2023年1月~2月の計21夜にわたり実施した。観測には東京大学木曽観測所(長野県)の105cmシュミット望遠鏡に設置された「トモエゴゼン(Tomo-e Gozen)」が用いられた。この装置は高速で画像を読み出せる広視野CMOSカメラで、空の広い領域を秒単位で観測できる。

また、観測で得られた膨大な動画データから突発的な閃光を効率的に検出するため、東北大学・東京大学・理化学研究所・NTT・東京科学大学が共同で、機械学習による専用解析ソフトを開発した。

東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と「トモエゴゼン」の広視野動画カメラ
「トモエゴゼン」が搭載された105cmシュミット望遠鏡、84台のCMOSセンサーが並べられたトモエゴゼンの広視野動画カメラ(提供:東京大学木曽観測所)

田中さんたちが観測で得た約85TBのデータを解析した結果、11~16等の範囲で0.5秒だけ光る閃光現象が1554個見つかった。そのうち563件は既知の人工衛星やスペースデブリと一致し、人工物体が多くの閃光現象を引き起こすことが明らかになった。これらの多くは高度約3万6000kmの静止軌道など、高高度の軌道を周回する物体だった。残りの991個も、多くは位置を変えて何度か検出されており、地球を周回する人工物体の閃光現象と考えられる。

検出された閃光現象
動画データから検出された閃光現象。横に並んだ5つのパネルが0.5秒ごとの時系列を表し、中央の時刻にだけ閃光現象が現れている(赤枠)。各パネルの視野角は約0.03度(提供:M. Tanaka et al.、以下同)

観測領域と検出された閃光現象
(上)閃光現象の掃索を実施した領域(赤道座標。色が明るい部分ほど露出時間が長い)、(下)検出された全閃光現象(青色の点)と、既知の物体と同定された閃光の位置(オレンジ色の点)

今回の観測で明らかになった閃光現象の頻度は、空の1平方度(=1度×1度。満月の大きさは約0.2平方度)当たり1時間に10回程度だった。空全体では1日に約1000万回もの閃光が発生していることになる。この結果から、秒スケールの可視光線観測を進める上で人工衛星やスペースデブリが大きな障害となることがわかった。また、既知の人工物と同定されなかった暗い閃光の多くは、高軌道を周回する30cm~1m以下の小型物体によるものと考えられる。

スペースデブリは人工衛星や宇宙船に衝突すると大きな被害を与える可能性があるため、その数や性質を理解することは宇宙開発の重要な課題だが、小さな物体は従来のレーダー観測ではとらえにくかった。今回の成果は、天文学の動画観測がスペースデブリの把握や性質の理解にも役立つ可能性を示すものだ。

「数億光年彼方の宇宙現象を探ろうとして、わずか数万km先の人工物体がこれほど多く見えるとは驚きでした。今後は、動画に映った閃光のより詳細な分析を行うことで、人工物体の形状などの特徴も調べていきたいと思います」(田中さん)。

「大量の動画データを高速分析し、予想以上に多くの閃光現象を見つけることができました。小さなデブリでも人工衛星や宇宙望遠鏡の損傷のもとにもなりますし、今後の宇宙開発に役立つデータを提供できると思います」(理化学研究所 吉田直紀さん)。

動画「秒スケールで宇宙をとらえる 検出された閃光現象の例」(提供:東北大学理学部・理学研究科)