フィラメント分裂による星誕生の証拠

このエントリーをはてなブックマークに追加
星が生まれる高密度のガスの塊のほとんどは、細長い円柱状構造のフィラメントに埋もれている。野辺山45m電波望遠鏡などによる星形成領域の観測から、そのフィラメントが分裂してガスの塊ができる証拠が得られた。

【2023年9月22日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所

恒星は宇宙空間に漂う星間ガスが集まって誕生する。ほとんどの星間ガスは低温で暗いため、可視光線では観測できず、赤外線や電波で観測されている。2009年から2013年まで運用されたヨーロッパ宇宙機関(ESA)の赤外線天文衛星「ハーシェル」は星間ガスの大規模な観測を行い、円柱状の細長い構造である「フィラメント」を星形成領域に多数発見した。

さらに、星の素になる密度の高いガスの塊(コア)のほとんどがフィラメントに埋もれていることも明らかになった。次は、フィラメント自体の形成や、フィラメントからどのようにしてコアが生まれるのかを解明することが、星の誕生の仕組みや太陽系の形成を理解する上で重要となる。

しかし、これまでの赤外線観測では、星間ガスの形を広く詳細に調べることはできていたものの、フィラメントの周りやフィラメント内部の運動に関する情報が得られず、コアの形成メカニズムは解明されていなかった。

九州共立大学の島尻芳人さんたちの研究チームは、長野県の野辺山45m電波望遠鏡と仏・ミリ波電波天文学研究所のミリ波干渉計「NOEMA」を使って、オリオン座にある星形成領域のNGC 2024(燃える木星雲、火炎星雲)を観測し、ガスの運動を調べることができる分子の放射(分子輝線)を取得した。さらに、分子輝線のデータに加えて、ハーシェルやESAの電波望遠鏡「APEX」の観測データを詳しく分析した。

オリオン座B分子雲南部とNGC 2024
(左)「ハーシェル」で観測された星形成領域「オリオン座B分子雲南部」と、同領域内にある「NGC 2024」(青い四角)。(右)「NGC 2024」領域の拡大図。3波長の赤外線データを合成した擬似カラー画像(提供:九州共立大学)

とくに野辺山45m電波望遠鏡の観測では、同時に複数の分子輝線の観測を高い速度分解能で取得できるという特徴が最大限に活かされ、様々な分子輝線の観測データが取得された。そのおかげで、幅広い密度域のガスの運動を調べることができ、ガスがフィラメント中に埋もれたそれぞれのコアに向かって動いていることが明らかになった。フィラメントが分裂してコアが形成されている可能性を示唆する成果だ。

島尻さんたちは分裂中のフィラメントと分裂していないフィラメントの単純なモデルを作り、今回の観測結果との詳細な比較を行った。その結果から、観測されたフィラメント内部のガスの動きが、分裂中のフィラメントと似た特徴を持っていることがわかり、フィラメントが分裂していると解釈できることが示された。こうした成果は、異なる密度域をとらえることができる様々な分子輝線のデータを同時に分析することで初めて見えてきたものだ。

フィラメント中のガスの動きとコアの分布のイメージイラスト
フィラメントが分裂してコアができていることを示す、フィラメント中のガスの動きとコアの分布のイメージイラスト(提供:国立天文台)

今回の野辺山45m電波望遠鏡の観測では、違う種類の分子輝線データで同じフィラメントの太さが測定され、観測する星間ガスの密度によって結果が違うことが明らかになった。また、連続波のデータから測定した太さが0.3光年であることもわかった。過去の研究と整合する結果であるとともに、フィラメントの太さが一定かどうかを確定するには、同じ種類のデータを使って色々なフィラメントの太さを測る必要性があることを示すものである。