宇宙の電磁波が地上に伝わる「通り道」を解明

このエントリーをはてなブックマークに追加
地球周辺の宇宙空間で発生して地上へ到達する電磁波の通り道が、地上と宇宙の4拠点からの観測で初めて明らかにされた。

【2021年12月14日 JAXA宇宙科学研究所東北大学

大規模な太陽フレアなどが発生すると、地球周辺の宇宙空間で発生する電磁波が活発になり、人工衛星や宇宙飛行士の活動に影響を与えたり、地上に到達して送電網の障害を引き起こしたりする。こうした電磁波がどのような経路で伝わるかについては、これまで十分に解明されていなかった。1機の科学衛星による単地点観測では、電磁波の発生領域と通り道を三次元的にとらえることはできないからだ。

金沢大学の松田昇也さんたちの研究チームは、宇宙で自然発生する電磁波の一種である電磁イオンサイクロトロン波(EMIC波)に着目し、同時多地点観測を行った。

地上では、日本が世界各国に展開する「PWING」とカナダの「CARISMA」という2つの宇宙環境計測プロジェクトが連携し、適度に離れた2拠点からEMIC波の通り道を観測した。さらに、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」とNASAのバン・アレン帯探査機「Van Allen Probes」が宇宙から観測を実施した。

電磁波の通り道を同時多地点観測する様子
電磁波の“通り道”を同時多地点観測する様子(提供:ERGサイエンスチーム)

その結果、2019年4月18日に4拠点でEMIC波をとらえ、その経路を明らかにすることに成功した。

地磁気赤道(地球の磁極を基準とした赤道)の上空を飛ぶVan Allen Probesは、北磁極付近にある地上の2拠点と同じ形の信号をとらえている。これは、地磁気赤道付近からおよそ5万kmの経路を通って地上へEMIC波が伝わっているのだと解釈できる。一方、その経路を横切るように移動した「あらせ」の観測では、まさに横切るタイミングでEMIC波が強くなっていた。これにより、通り道の太さは約80km程度と狭いことが判明した。

観測結果
EMIC波を4拠点で同時にとらえた観測結果(提供:研究発表プレスリリース)

さらに、EMIC波が通り道を伝わる過程で、周囲の冷たいプラズマにエネルギーを与えていることも衛星のデータからわかった。EMIC波は高エネルギーのプラズマを大気に入り込ませ、プロトンオーロラと呼ばれる種類のオーロラを生むことがわかっているが、今回の研究でその経路も明らかになったと言える。

宇宙の電磁波がどこで発生し、どのような経路で伝わるかを把握することで、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上が期待できる。