火星が冷えた時期、しわの年代で推定

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火星表面のリンクルリッジと呼ばれるしわ状地形の年代測定により、全球的な火山活動は約37億年前に停止しており、このころに火星が急激に冷えていったことが判明した。

【2021年8月2日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

かつて火星は地球のように温暖で、大量の水をたたえた海が存在していたと言われている。この環境がいつから現在のような冷えて乾燥した惑星になったかについては議論が続いている。鍵を握る要素の一つが、惑星内部の熱だ。誕生直後の火星は、現在の地球のように内部が高温で、表面では火山活動もあったとされる。火星の内部が冷えた時期を知ることは、この惑星の歴史を知る上で重要だ。

単純なモデルでは、惑星内部の熱は表面へ伝わり、そこから放射冷却によって宇宙空間へ失われる。ただ、実際には火山活動による熱損失も複雑に生じているため、冷却にかかる時間は簡単に計算できるものではない。

JAXAのRuj Trishitさん(研究当時東京大学)たちの研究チームは、リンクルリッジと呼ばれるしわ状の地形に注目した。リンクルリッジは火星全体に分布していて、火山活動の停止後に近くで生じる収縮や歪みによって作られたと考えられる。つまり、リンクルリッジの年代を測定できれば、火星内部が冷却して火山が収まったタイミングを推定できるはずだ。

火星表面の3次元形状モデルとリンクルリッジ
火星表面の3次元形状モデル。探査機2001マーズ・オデッセイによるモザイク画像(Christensen et al., 2004)に、探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーと探査機マーズ・ エクスプレスが取得したデータから作られた数値標高モデル「High-Resolution Stereo Camera(HRSC)blended DEM」(Smith et al., 2001; Fergason et al., 2017)を投影したもの。北東-南西方向に線状に伸びている地形がリンクルリッジ(提供:東京大学リリース、以下同)

冷えた後の火星では、地形が水や溶岩によって更新されることがなくなったので、その後作られたリンクルリッジは天体衝突によるクレーター以外で変形することはなかったはずだ。このクレーターの密度が高ければ、それだけ古い地形だと推定できる。Trishitさんたちはクレーターの位置や大きさなどで集計値を補正するBuffered Crater Counting(BCC)という最先端の手法を適用して、年代測定を正確に行った。

NASAの火星探査機マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)が撮影した画像を用いて火星全球を調べた結果、火山地域を取り囲む27の領域にリンクルリッジが分布していることが判明した。ここからBCC法で調べた結果、形成年代は25~38億年の間で、特に35.5~35.9億年前に集中していることがわかった。

リンクルリッジの分布と形成年代を示したマップ
火星全球でのリンクルリッジの分布と形成年代を示したマップ。(青線)特定したリンクルリッジ。(数字)BCCに基づき決定された年代(単位:Ga、1Ga=10億年)。背景色は1枚目と同じ数値標高モデルに基づく火星全球の標高を示す。画像クリックで拡大表示

リンクルリッジ周辺の火山で形成されたと考えられる溶岩平原の年代を考慮すると、火山活動が沈静化したのは約37億年前である。火星の冷却が最も急速に進んだのもこのころと考えられ、それに伴う地表の収縮が一番激しかった35.9~35.5億年前に多くのリンクルリッジが形成されたようだ。約35.5億年前には一時的に活動を再開した火山もあったが、リンクルリッジの年代はそれが一時的なものだったことを語っている。

最古のリンクルリッジが38億年前に形成されたものだったことから、それ以前は水などによる激しい侵食作用が起こるほど温暖な気候だったと推定できる。逆に言えば、約38億年前に大規模な気候変動が起こり、火星は熱的に死にかけた状態へと傾いていたのだ。それは地球上で生命が誕生していたのとほぼ同じ時期である。

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