ESAの火星探査車に「ロザリンド・フランクリン」と命名
【2019年2月14日 ヨーロッパ宇宙機関】
「エクソマーズ (ExoMars)」はヨーロッパ宇宙機関(ESA)とロシア・ロスコスモスによる共同の火星探査ミッションだ。2016年3月に打ち上げられ同10月から火星周回を開始した探査機「トレース・ガス・オービター(TGO)」と、2020年に打ち上げ予定の探査ローバー「エクソマーズ・ローバー」からなっており、このうちTGOは火星の大気に含まれている微量ガスを調査して、生命活動や地質活動につながる証拠を探している。
一方の「エクソマーズ・ローバー」は、火星の表面を移動する能力と火星の地中を詳しく調査する能力を兼ね備えた初の探査車だ。かつて火星には水が存在していたが、現在は強い放射線にさらされた乾いた表面が広がっている。「エクソマーズ・ローバー」は地下2mまで穴を掘って土壌の成分を分析して、過去の火星に存在し、現在も火星の地下に眠っているかもしれない生命の証拠を探すことになっている。
「エクソマーズ・ローバー」のイラスト。ロシアの固定表面科学プラットフォーム(イラスト後方)とともに、2020年7月に打ち上げられ、2021年3月に火星に到着する予定(提供:ESA/ATG medialab)
昨年7月、イギリス宇宙局が、この「エクソマーズ・ローバー」の名前を公募した。ESAはこれまで、X線望遠鏡「XMMニュートン」や宇宙マイクロ波背景放射観測衛星「プランク」、2022年に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡「ユークリッド」など、偉大な科学者の名前を探査機に付けてきた。この公募に対して、ESAに参加している22か国すべての市民から3万6000通以上の名前の案が集まった。その案の中から、専門家委員会によってロザリンド・フランクリンの名前が選ばれた。
ロザリンド・エルシー・フランクリン(1920-1958)はイギリスの化学者・X線結晶学者で、生物の細胞の中で遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)の分子が二重らせん構造を持つことを1952年にX線結晶構造解析の手法で初めて突き止めた。フランクリンの論文は、同時期にやはりDNAの二重らせんモデルを提唱したジェームズ・ワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンスの論文とともに1953年の『Nature』の同じ号に掲載された。1962年、DNAの構造を解明した功績に対してワトソン、クリック、ウィルキンスの3人にノーベル医学生理学賞が授与された。フランクリンは1958年に卵巣癌で死去しており、授賞の対象とはならなかった。しかし、フランクリンが撮影したDNAのX線回折像の写真を同僚のウィルキンスが彼女に無断でワトソンとクリックに見せていたことが判明したため、ワトソンとクリックの二重らせんモデルはフランクリンの業績の窃取だという批判もある。
ロザリンド・フランクリン(1955年撮影)(提供:MRC Laboratory of Molecular Biology)
「フランクリンの名は私たちに、探求すべきはヒトの遺伝子であるということを思い出させてくれます。科学は私たちのDNAの中にあり、また私たちがESAで行っているすべての活動の中にあります。ローバー『ロザリンド・フランクリン』はこの精神を受け継いで、私たちを宇宙探査の最前線へといざなうことでしょう」(ESA長官 Johann-Dietrich Wörnerさん)。
「ロザリンド・フランクリン」の着陸地点の候補としては、昨年11月の専門家委員会で、火星の赤道近くにあるオクシア平原が選ばれた。水が豊富で原始的生命が住んでいたかもしれない太古の火星の環境について、この場所で調査を行う計画だ。
(文:中野太郎)
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