熊本県民天文台、新しい望遠鏡でまた一歩

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2016年4月14日の熊本地震前震で望遠鏡が倒壊した熊本県民天文台。多くの支援を受けて新しい望遠鏡の導入が実現した。

【2018年12月19日 星ナビ編集部

報告:艶島敬昭さん(熊本県民天文台台長)

「星ナビ」2018年12月号「パオナビ」より)

熊本県民天文台では、2016年4月14日の熊本地震前震で観測室に設置していた41cm反射ドイツ式赤道儀が大きくジャンプして倒れ、運営にあたってきたメンバー全員に大きな衝撃を与えました。発生が1日遅ければ、重さ1tの望遠鏡の下敷きになって多数の来台者やスタッフ自身が死傷したかもしれなかったからです。それでも「早く再開して欲しい」という市民の声に押されて同年7月初旬に一般公開を再開し、「地震でも倒れない望遠鏡を導入したい」と募金の呼びかけをスタートしました(参照:「熊本地震から半年、天文台で「倒れにくい」新望遠鏡」)。

地震で倒壊した望遠鏡
2016年4月の熊本地震によって倒壊したもとの望遠鏡(提供:熊本県民天文台、以下同)

宝くじの助成金や寄付金付き年賀葉書の配分金を申請すると同時に、助成金だけでは不足する資金を集めるべく「望遠鏡募金」を呼びかけたのですが、寄付集めに専念できるスタッフを配置できるわけでなく、地元の被害も甚大でとても苦戦していました。ところが、その活動がライオンズクラブ国際協会の目にとまり、「地震でも倒れない望遠鏡を設置する事業」が全国から寄せられた義援金の使途の一つとして採択されました。そして2017年3月に、ライオンズクラブから西村製作所に望遠鏡一式が発注されました。また、全国から県民天文台に寄せられた「望遠鏡募金」で、新しい望遠鏡を導入するための建物の改修など必要な周辺整備を行うことができました。

2018年6月12日の朝、新しい望遠鏡を積んだ西村製作所のトラックとクレーン車が到着して、搬入・設置の作業が始まりました。熊本では梅雨入りの時期ですが幸いなことに雨は降らず、天文台のスタッフも協力して、15日の夜までに精密導入補正データの取得や調整など全ての導入作業が終了。測地衛星「あじさい」を対象に人工衛星追尾モードの動作も確認し、操作法の説明を受け、望遠鏡の設置が完了しました。

6月24日にはライオンズクラブから熊本県民天文台へ望遠鏡の寄贈・引き渡し式が行われ、望遠鏡のお披露目式=「青空の中の金星観察」を実施。ここから、安全に最大限の配慮を払う、まったく新しい視点を加えての一般公開が始まりました。皆様からの温かいご支援にこの場を借りて心から御礼申し上げます。

新しい望遠鏡
新しい望遠鏡。鏡筒は口径40cm合成焦点距離3250mmのリッチークレチアンで架台は経緯儀式。指向精度・追尾精度共に高く、公開では好評、写真撮影にも活躍しそうです

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