イトカワは15億年前の天体衝突で破壊された破片から生まれた
【2018年8月10日 大阪大学】
2005年に「はやぶさ」が探査を行った小惑星「イトカワ」は、地球軌道よりも内側に入る軌道を持っていて、天体の長径も500mを超えるため、将来地球に衝突して大きな影響を及ぼすリスクがある「潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)」に分類されている。こうした小天体がいつどのようにして生まれたか、また、どのくらいの時間をかけて軌道が地球に近づくようになったのかについては、これまで数値シミュレーションから得られた推定しかなかった。
大阪大学の寺田健太郎さんと東京大学大気海洋研究所の佐野有司さん・高畑直人さんたちの研究チームは、「はやぶさ」が採取して地球に持ち帰ったイトカワの微粒子を使い、この中に含まれる鉱物の年代を分析した。
年代分析の方法は「ウラン-鉛年代分析」と呼ばれるもので、鉱物の中に含まれているウランが放射線を出して次第に鉛に変わっていく現象を利用して絶対年代を求める。この方法を使うと、鉱物が固体の結晶として誕生した年代だけでなく、その後に天体衝突などの激しい作用を受けて鉛の成分が揮発した場合、その年代も知ることができる。
イトカワの微粒子4粒の年代分析の結果、微粒子に含まれているリン酸塩鉱物が、イトカワの前身となった母天体の中で約46億年前に結晶となり、その後約15億年前に他の天体の衝突を受けて別の組成に変化する「衝撃変成」を受けていたことが明らかになった。軌道がよくわかっている地球近傍小惑星の絶対年代を決めることができたのはこれが世界初だ。
分析のために研磨されたイトカワの微粒子(直径約50μm)。かんらん石(Olivine)の中に斜長石(Plagioclase)、カルシウムリン酸塩(Ca phosphate)、カルシウムに富んだ輝石(Ca-rich pyroxene)などの結晶が見られる(提供:大阪大学リリースページより、以下同)
今回の分析結果と、これまでの研究で得られているイトカワの年代情報をまとめると、イトカワの歴史は次のようなものと考えられる。
- 約46億年前:直径20km(現在のイトカワの約40倍)以上の母天体が小惑星帯で誕生した。
- 約14~15億年前:母天体に別の天体が衝突し、大きく破壊された。
- その後:母天体の破片が再び集積し、イトカワに似た軌道を持つたくさんの小惑星のグループ(小惑星族)が作られた。
- 約40万年前以降:イトカワの「頭部」と「腹部」を形作る岩塊が合体して現在のイトカワの形になった。
- その後:地球軌道を横切る軌道へと移動し、現在に至る。
イトカワのような地球近傍小惑星は最大で1000万年程度の期間のうちに惑星と衝突するとコンピューターシミュレーションによって見積もられており、将来イトカワも地球または水星・金星・火星のいずれかに衝突する可能性が高いと予想されている。
小惑星イトカワの歴史。赤字はイトカワ微粒子の分析から得られた知見
また、これまでの研究では、イトカワの微粒子は地球に飛来する隕石の約9割を占める「普通コンドライト」の一種で、鉄が少ない「LLコンドライト」というタイプの隕石に似ているとされてきた。LLコンドライト隕石の多くは約42億年前に衝撃変成を受けているものが多いが、今回の微粒子の年代分析で得られた衝撃変成の年代はこれらとは異なっているため、イトカワはLLコンドライト隕石の母天体とは別の進化を経た天体のようだと考えられる。ただし、2013年にロシア・チェリャビンスクに落下して話題となったLLコンドライト隕石は約15億年前に衝撃変成を受けているという研究があり、この隕石はイトカワと何らかの関連を持っている可能性がある。
現在、「はやぶさ」の後継となる探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着して様々な観測を始めている。9月以降にはリュウグウに着陸して試料を採取し、2020年に地球に帰還する予定だ。今回用いられたイトカワ微粒子の分析技術は「はやぶさ2」が持ち帰るリュウグウのサンプル分析にも威力を発揮するだろう。
〈参照〉
- 大阪大学:地球近傍小惑星イトカワの年代史を解明
- Scientific Reports:Thermal and impact histories of 25143 Itokawa recorded in Hayabusa particles 論文
〈関連リンク〉
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