木星の「中赤斑」は、風速も大赤斑なみだった

【2006年10月17日 NASA Goddard News

2005年12月以降、白かった色が大赤斑のように赤くなり話題となった、木星の「中赤斑」。その中赤斑は、色ばかりか風速までもが大赤斑と同じだったことが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で判明した。大気活動の激しさが木星の斑点の色に関係するという説を裏付ける結果となりそうだ。


(小赤斑の画像、左:拡大、右:広域)

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した木星。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, A. Simon-Miller (NASA/GSFC), I. de Pater, and M. Wong (UC Berkeley))

木星の中赤斑は、人類の木星観測史上例を見ないほど大きな変化の産物だ。その誕生をさかのぼると、1940年代に大赤斑のすぐ南に現れた3つの小さな白斑にたどりつく。1998年から2000年にかけ、3つの白斑は次々と合体して1つになった。そして2005年12月に色が変わりはじめているのが発見され、2006年に入ってからは立派な「赤斑」となったのである。

木星そのものに比べると小さな斑点に見えるが、中赤斑の直径は地球に等しい。さらに、300年以上前から観測され続けている大赤斑のサイズは地球の3倍もある。どちらも、大気深部の暖かいガスが上昇気流となり作り出した巨大な「嵐」だ。しかし、大赤斑や中赤斑が周囲と比べてこんなにはっきりと赤くなるメカニズムには、謎が多い。白斑が色を変えて中赤斑になった理由を探れば、おのずと答えは見えてくるはずだ。

手がかりとなりそうなのが、中赤斑の「風速」だ。1979年に惑星探査機ボイジャー1号・2号が相次いで木星に接近した時点では、合体前の白斑の最高風速は時速約430キロメートル(秒速約120メートル)だった。それからおよそ20年後に木星探査機ガリレオが観測したときは、白斑の風速に変化はなかった一方、大赤斑の最大風速は時速約650キロメートル(秒速約180メートル)にもなることが判明した。さらにおよそ10年後、アメリカの研究チームがハッブル宇宙望遠鏡を使い、合体して変色した後の中赤斑を調べた。すると、その風速は大赤斑に匹敵するほどまでに加速していたのである。

なぜ中赤斑はこれだけ強くなったのだろうか。まず、大きさが変化した可能性が考えられる。スケート選手が延ばした腕を縮めると回転が速くなるように、中赤斑が全体として小さくなったために大気の回転が速くなったというわけだ。もう1つの可能性は、それまで同じ緯度に3つあった白斑が1つにまとまったことで、エネルギーが中赤斑に集中するようになったというものだ。

どちらであるにせよ、中赤斑は嵐として強くなったために赤くなったのだろうと研究チームは見ている。大気下層のガスが上昇気流に持ち上げられ、太陽からの紫外線を浴びて変色し、大赤斑や中赤斑を赤くしているという説が、現在有力だ。当然、風速が大きいほどこのメカニズムは強く働く。もっとも、その因果関係には2通り考えられる。より多くのガスが巻き上げられるからか、より長い間上層にさらされるからか、だ。

残された最重要課題は、変色しているガスの正体を探ることである。紫外線を照射すると赤くなる物質はいくらでもあり、木星の大気中にも数多く発見されている。今後研究チームは、再び「色」の観測に立ち返ることになりそうだ。木星の中赤斑を慎重に分光観測するとともに、研究室における実験を繰り返す予定である。じきに、木星最大級の気象現象にして最大級の謎でもあった大赤斑と中赤斑の正体も、その姿と同じようにくっきりと浮かび上がりそうだ。