大赤斑と中赤斑が並ぶとき

【2006年6月9日 Science@NASA

木星の「大赤斑」と同じ赤い色を持つようになった白斑BAが、「中赤斑」としての歴史のクライマックスを迎えるかもしれない。7月に大赤斑とすれ違うのだ。エネルギーを失って赤さを保てなくなる可能性も指摘されているが、結末は実際に見てみなければわからない。


(大赤斑と中赤斑の画像)

フィリピンのアマチュア天文家が撮影した木星の写真。クリックで拡大(提供:Christopher Go)

地球で2つの台風がぶつかることなどめったにないし、普通は想像さえしないだろう。だが、そんな想像を超えた「光景」があと1か月で見られる。正確に言えば、2つの嵐は正面衝突するのではなくてすれ違うだけだ。しかし、何百年にもわたって太陽系一強い嵐の座を守ってきた渦と、最近になって2番目に躍り出てきた渦が異常接近するのだから、何も起きないとは思えない。その上、「事件」は何億キロメートルも離れた木星で起きるのだから、われわれは何の被害も恐れることなく、ただ好奇心を持って見るだけでよい。

2つの嵐、「大赤斑」と「中赤斑」をハッブル宇宙望遠鏡でモニタリングしているNASAの研究員によれば、両者の「会合」は7月4日である。フィリピンのアマチュア天文家で、中赤斑を撮影し続けているChristopher Go氏は「両者の距離は、毎晩見るたびに縮まっていることがわかります」と語る。写真は5月28日に彼が撮影したものだが、相当近づいていることがわかるはずだ。

もちろん、「大赤斑」と「中赤斑」の会合は初めてのことだが、中赤斑が「白斑BA」という本来の名前どおり白かった頃に、2回すれ違っている。それは2002年と2004年のことだったが、2回とも周辺部が若干荒れた程度で、2つの嵐は何事もなかったかのように動き続けた。

しかし、今回は違うかもしれない。「中赤斑」が「白斑」に戻る可能性があるのだ。

同じ色をしている中赤斑と大赤斑の中では、同じメカニズムが働いていると見られる。大赤斑が赤い理由自体、完全には解明されていないが、有力な仮説によれば次のとおりだ。大赤斑の中では強力な上昇気流が働いていて、木星大気の奥深くにある物質が上層まで巻き上げられている。このとき、巻き上げられた物質が紫外線と反応して赤くなることで、大赤斑はその色を保っているのだ。

白斑BAが「中赤斑」であるためには、嵐としてのエネルギーを保たなければいけない。しかし、大赤斑とすれ違えば、おそらく南へ押されるだろう。そこでは、白斑BAの回転とは逆方向に大気が流れている。そのため白斑BAの回転が弱まり、赤い色を保てなくなるかもしれない。

とはいえ、どんな専門家でも本当のことは予想できない。7月の会合を楽しみに待つとしよう。