月刊ほんナビ 2026年6月号
📕 「月の女神が導く人類の次の挑戦」
紹介:原智子(星ナビ2026年6月号掲載)
1972年のアポロ17号から50年以上を経て、有人月探査計画第2弾「アルテミスⅡ」が成功した。この四半世紀、日本人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する機会が増え「宇宙は身近な場所」になったと感じる。しかし、ISSまでの距離は地図で示せば「東京から神戸ほど(約400km)」にすぎず、月(約38万km)までの道のりは桁違いに遠い。ふたたび、本格的な月探査を目指す人類の歩みと将来を読んでいこう。
まずは、宇宙企業のパイオニアであり、今後のアルテミス計画でも重要なパートナーとなるスペースXと、それを率いるイーロン・マスク氏の軌跡を追った2冊『LIFTOFF』/『REENTRY』。前書では2002年の会社創設から2008年の「民間企業初の軌道到達成功」まで、後書ではその後の「再使用可能ロケットの開発」「民間初有人飛行の成功」「大規模通信衛星網の構築」などを紹介。マスク氏のほか、数十人の技術者や技能者、経営陣などを独占取材したジャーナリストが、その実像を立体的に描き出した記録だ。ロケットが飛び立つ“リフトオフ”のごとく、多くの失敗と挑戦を経て未来を切り拓く姿(前書)は、冒険小説さながらの興奮を感じる。一方、宇宙から地球へ帰還する“リエントリー”という過酷な環境をくぐりぬけ成功者になる姿(後書)には、英雄譚で感じる負の側面も現れる。そのすべてが「火星移民」を目指すためだと思うと、まるで彼だけ異次元の速度で生きているようだ。
さて、人類が宇宙を目指すときに欠かせない存在が宇宙飛行士だ。元宇宙飛行士の土井隆雄氏が、高校時代の天体観測日記に書き留めた詞(うた)を絵本にしたのが『太陽系賛歌』。各惑星と太陽に向けて語りかける言葉の一つ一つから、土井少年の宇宙に対する敬意と憧れを感じる。そんな彼は、2回目の宇宙飛行で「生命」の大切さに気づいたという。黒色の表紙からは思いもよらぬほど温かな絵と言葉が詰まったこの小さな本は、右から開くと日本語版、左から開くと英語版のバイリンガル仕様になっている。さらに、和文は読みやすいユニバーサルデザインフォントが採用され、「万人に届けたい」という彼の思いもうかがえる。
同じく、元宇宙飛行士の野口聡一氏が書いたのが『宇宙でラーメンは食べられるか』。こちらは、宇宙で初めてラーメンを食べた野口氏らしいタイトルの宇宙生活案内書だ。異なる3種類の宇宙船で宇宙飛行を行い、3種類の方法(滑走路、地面、水面)で帰還したギネス世界記録を持つ彼ならではの柔軟性に富んだ“宇宙での暮らし”が紹介されている。出発準備から宇宙での衣食住まで、具体的かつユーモラスに展開し、まるで「初めての海外旅行ガイド」のように楽しめる。この本を読むと、実は「宇宙でも地上でも大切なことは基本的に同じ」だと感じる。現代社会を毎日サバイバルする私たちにとって「宇宙ライフハック十か条」は、生活と人生を支えるヒントになる。
次は、医師の立場から宇宙飛行と健康の関わりを紹介した児童書『宇宙飛行士を支える医師』。耳鼻咽喉科医の石井正則氏は、日本初の宇宙飛行士誕生前から「宇宙酔い」の研究を始め、40年にわたり支えてきた。長期滞在や遠距離飛行が前提となる宇宙で健康管理は欠かせない。特異な環境において特別な対策は必要だが、ヨガインストラクターでもある石井医師の信念は「心と体のストレスをとくことが基本」という考え方。確かな研究成果を積み重ねてきた医師だからこそ“健康的な暮らし”の大切さを実感をもって教えてくれる。
最後はズバリ『宇宙にヒトは住めるのか』。『星ナビ』読者なら「もうISSに住んでいる」と答えるかもしれないが、そうした天文ファンでもあまり知らない宇宙開発技術の最前線を丹念に取材した一冊。月産月消、月面住宅、宇宙医療、次世代生命など、どれもがエキサイティングな情報だ。これらの技術は、今後のアルテミス計画を着実に進めるだろう。同時に、地球で暮らす私たちにも役立つときが来る。これまでの宇宙開発がそうであったように。
















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