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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

137億光年のヒトミ 地球外知的生命の謎を追う

表紙写真

  • 鳴沢真也 著
  • 草炎社
  • 四六判、190ページ
  • ISBN 978-4-88264-301-2
  • 価格 1,260円

兵庫県立西はりま天文台の科学的な地球外知的生命探しについて、主任研究員・鳴沢真也さんが熱く語りかける一冊だ。口径2メートルの「なゆた望遠鏡」を使って、宇宙人が放っているであろうレーザー光線を検出しようとスタートした「なゆたOSETI」の原理もよくわかる。西はりま天文台の楽屋裏や、公開天文台の仕事のやりがいも伝わってくる。公開天文台のリアルな日常を語ったノンフィクションとしても楽しく読める。

本書を読みながら、評者は思わず自分を著者に重ねてしまった。まだお会いしたこともなく、もちろん評者より20近く若い、子どもたちとパソコンを操作している写真で拝見する限り風貌も好青年(よりちょっと上)の方なので、評者とは似ても似つかない。だが、ともに出会いは小学校4年生のとき。著者はアポロが天文と出会いウェスト彗星で深まり、一方の評者は土星が出会いで池谷・関彗星が追い打ちだった。著者は研究者志望で評者は教員志望だったが、ともに教育学部で天文を勉強し、ともに食変光星(カシオペヤ座RZとペルセウス座β)を観測研究し、卒業後ともに教員に就職し、前者はそのまま研究者として、評者は挫折して、ともに天文道に進んだ。どうやら終の棲家は共通らしい。

それはともかくこの本は、一人の天文研究者のノンフィクションとして、小説以上におもしろい。とくになゆた(世界最大の一般公開用口径2望遠鏡)で星を見た人の心理が、怒り・敵意・疲労が少なくなるというユニークなアンケートに評者は感心した。まさに天体観望効果の実証である。評者もあちこちの天体観望会のお手伝いをしているが、お客様の顔つきが前後で明らかに変化するのをたびたび拝見している。またまた手前味噌な話で恐縮だが、実は昔は天体観覧会とか観測会とか言われていたのを渋谷の五島プラネタリウムで「天体観望会」と銘打ったのは評者である。

本書後半を構成するOSETIに関する記事は、その歴史と現状と将来を展望するために手短によくまとまった内容になっている。と同時に、公開天文台の職員としての普及業務に携わりながら、子供たちや来場者とともに進んでいく姿が会話の端々に見えてきて、嬉しく感じてしまう。

ともかくとても良い本を読んだ感じでいっぱい。老人はそろそろ引退すべきときがやってきたようだ。鳴沢さん、どうぞよろしく!

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