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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

もしも宇宙を旅したら 地球に無事帰還するための手引き

表紙写真

  • ニール・F・カミンズ 著/三宅 真砂子 訳
  • ソフトバンククリエイティブ
  • 四六変型判、304ページ
  • ISBN 978-4-7973-4042-6
  • 価格 2,100円

本書を語るに数百字ではまったく足りないが、とりあえず“The Hazards of Space Travel : A Tourist's Guide”(宇宙旅行の危険:旅行者向けガイド)という原題が、本書の内容をもっともよく示している。といっても、展開は「旅行中この点にお気をつけあそばせ」なんていうありきたりなものではなく、未来のベテラン宇宙飛行士がわれわれに危険を語るというシナリオだ。すなわち、もうすぐ現実にやってくる宇宙観光旅行時代に備えた科学書である。各部のテーマを見るだけで、本書の独創的意図がおわかりいただけるはずだ。すなわち、第1部「空気、土壌、水による危険」、第2部「放射線の危険」、第3部「衝突の危険」、第4部「人間が引き起こす危険」、第5部「医学的な危険」、第6部「人間関係などが生む危険」、第7部「地球への適応能力を取り戻す」、である。

現在は国際宇宙ステーションなどで数人で仲良くやっているので問題が明確化していない。しかし言語も習慣も思想も異なる数百人から数千人の宇宙飛行士たちが、長期間狭い空間での居住を強いられると、意思の疎通や争いごとの処理をどうするか、かつて評者は考えたことがあるが、当時そんなことはどの本にも書かれていなかった。今でも宇宙法の専門家は、その点を多くは語らない。宇宙船中での殺人事件は、きっと将来大きな国際問題になるだろう。今でも米軍兵士による犯罪の裁判権など問題になっているのだから。

本書は、それこそ一行一行に現代宇宙科学・惑星物理学の知見がちりばめられており、それにもとづいて飛行時の事故予防・対処法や探査時の安全対策に関する物理・化学のトピックスが詰め込まれている。例えば月面の溶岩トンネル崩落で生じた曲がりくねった溝の話など、まったく物理学の本である。

なお、本書では2020年代に月、30年代に火星や地球接近小惑星や彗星、今世紀末までにはメインベルト小惑星や木星とその衛星への旅行が実現できるとされている。新婚旅行は本書持参で月か火星へどうぞ! もちろん、危険はお避けになりながら!

莫大な資金が必要ではあるが、一般の人でも国際宇宙ステーションに滞在でき、弾道飛行で無重力状態を体験するだけなら、近い将来に200万円程度で可能になるといわれる。しかし、これが火星や小惑星、さらに先の木星への旅となるとどうだろうか。対処すべき数多くの課題を、米国メイン大学の天体物理学者が考察する。放射線の危険、衝突の危険、医学的な危険と、本書の目次に並んだ文字を見ると、宇宙旅行は実現できない気がしてくる。それでも、人類はいずれ、その課題を乗り越えて宇宙へ飛び出していくのだろう。宇宙から帰還して地球に再び適応できるかという、最後の危険を顧みずに。

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