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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

時とはなにか 暦の起源から相対論的“時”まで

表紙写真

  • 虎尾正久 著
  • 講談社
  • A6版、230ページ
  • ISBN 978-4-06-159889-8
  • 価格 882円

評者は、本書の初版本(その世界ではかなりの価格と聞く)を持っている。学生時代最後の年1969年に出版されたものだ。当時からブルーバックス・ライブラリーにはお世話になっており、評者自宅書棚には二段半に至り100冊以上が並んでいるが、その中でも初期のものである。以来、本書にはたびたびお世話になった。今回の出版はそれを底本にしたものだが、ほとんどそのままといってよい。それだけ当時は最先端の本だった。古書店でもほとんど入手不可能だった本書の復刻版が出た!と聞き、本書評でぜひとも紹介したく大書店に飛び込み購入、改めて通読した次第だ。

著者は2005年に96歳の長寿でお亡くなりになったが、本書の現代的存在価値は変わっていない。なにしろ、長年東京天文台で「時の番人」をお勤めになった方で、実地観測的側面から本書を著述されているからだ。ちょっと勉強してクルクルと自論を変えるような疑似科学者の「時論」ではない。天文台で星や太陽を目の前にして、位置天文学や報時の講義を受けているような感じである。とくに第6章の「秒を決める」はぜひどなたにも読んでいただきたい個所で、天文学者と物理学者の対立、とりわけ観測と実験に対する考え方や立場の相違が、読むたびにズシンと伝わってくる。

国際天文学連合総裁が国際度量衡委員会委員長や国際電波科学連合に対し、断固抗議文を送った件など、詳しく現場を知る人のみに可能な重い証言である。

評者も、天文学と実験物理学との大きな違いは、時によるかよらないかにあると考える。天文学の発見は、西暦XX年XX月XX日XX時XX分XX.XX秒に行われたことに意味があり、二度と繰り返せない(だからどれも重要なのだ)。対して物理実験では年月日時分秒に意味が無く、いつ、何度やっても同じ結果になることこそが重要なのだ。それは暦表時(天文時)と原子時の違いでもある。暦表時には悠久の時の流れがある一方、原子時には時“間”だけに意味があり、そこには過去も未来も無いのだ。

だが、ともかくこんな堅苦しいことを申し上げるよりも、筆者が専門家だからこそわかりやすく書かれた本書を、ぜひ手にとって頂きたい。復刻版につけられた「単位」研究者北海道大学名誉教授高田誠二先生の解説もすばらしい。「時」が面白いですよ。

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