巨大宇宙嵐で地球近傍の宇宙空間が超高エネルギー電子の発生源に

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2024年5月の巨大宇宙嵐の際、超高エネルギー電子がほとんど入り込めない「破れない壁」のすぐ内側で、電子が数メガ電子ボルトまで加速されていたことが、衛星「あらせ」の観測で明らかになった。

【2026年11月4日 名古屋大学】

地球の周囲には、地球の磁場に捕らえられた高エネルギーの電子やイオンからなる「放射線帯(バン・アレン帯)」が広がっている。放射線帯の外側の部分では、太陽活動に伴う宇宙嵐によって電子の量が大きく増減することが知られている。

一方、地球半径の約3倍に相当する磁力線の位置(高度約1万2000km)付近より内側では、数メガ電子ボルト(MeV)以上の超高エネルギー電子がほとんど存在せず、宇宙嵐が発生しても容易に入り込めないことが観測から示されてきた。この境界は「インペネトラブル・バリア(impenetrable barrier、破れない壁)」と呼ばれ、地球近傍の磁場構造による電子の輸送の抑制や、低温で高密度のプラズマが存在する「プラズマ圏」内での電子の散乱・消失が関係していると考えられている。

ところが、2003年10月から11月にかけて発生した巨大宇宙嵐「ハロウィン嵐」では、壁の内側で高エネルギー電子が増加したことが低高度衛星の観測から報告された。ただし、磁気赤道付近における電子の分布や加速環境を十分に把握できず、どういったときに壁の中で増えるのかなど、メカニズムはよくわかっていなかった。

太陽風とジオスペースの解説図
太陽風と地球近傍の宇宙空間「ジオスペース」の解説図(提供:ISAS/JAXA)

名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純さんを中心とする研究チームは、2024年5月に発生した、2003年以来最大級の巨大宇宙嵐に注目した。この宇宙嵐は日本各地でオーロラが見えたことでも大きな話題になったものだ。

まず、ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)が2017年から蓄積してきた観測データを調べたところ、通常の宇宙嵐では「破れない壁」の内側に超高エネルギー電子が現れないのに対し、2024年5月には約3MeVの電子が壁の内側で著しく増加していることが確認された。

2017年からのプラズマ圏と放射線帯の変動
「あらせ」が観測した2017年からのプラズマ圏と放射線帯の変動。2024年5月の巨大宇宙嵐では、通常は超高エネルギー電子がほとんど存在しない「破れない壁」の内側で約3MeVの電子が顕著に増加した(提供:Miyoshi et al., 2026 Figure 1より改変)

さらに研究チームは、電子の単純な増減を見るだけでなく、粒子の位置と運動状態ごとの分布を表す「位相空間密度」という物理量を解析した。この量を調べることで、外側から電子が運ばれてきた場合と、その場所で電子が加速された場合を区別することができる。「あらせ」は、放射線帯電子の位相空間密度を精度よく導出できる数少ない衛星の一つだ。

解析の結果、宇宙嵐の回復期に、壁のすぐ内側、高度約1万2000km付近の領域で、位相空間密度に明瞭なピークが形成され、それが時間とともにその場で増えていくことがわかった。これは、単に外側から電子が輸送されただけでは説明できず、電子がその場で数MeVまで加速されたことを示す強い証拠である。その後、加速された電子は、その場所を中心に地球側と反地球側の両方向へ広がっていった。

2024年5月の巨大宇宙嵐における電子の位相空間密度の変化
2024年5月の巨大宇宙嵐における電子の位相空間密度の変化。宇宙嵐の回復期にL*~3(地球半径の約3倍に相当する磁力線の位置)付近で局所的なピークが形成され、その後、電子が内側と外側の両方向に広がった(提供:Miyoshi et al., 2026 Figure 3より改変)

このとき「あらせ」は、電子の増加が起こった領域で、音に変換すると小鳥のさえずりのように聞こえることから「宇宙のさえずり」とも呼ばれる自然電波「コーラス波」が強く発生していたことも観測していた。コーラス波は電子と共鳴し、電子を高いエネルギーまで加速することが知られている。

2024年の巨大宇宙嵐では、プラズマ圏が通常よりもはるかに地球側まで収縮した。さらに、高度90~500km付近にある電離圏の電子密度が大きく減少する「負の電離圏嵐」によって、このプラズマ圏の回復が通常よりも著しく遅れ、低密度の状態が長期間続いた。これらの結果、普段は高密度のプラズマに満たされている領域でコーラス波が発生し、電子を効率よく加速できる環境が形成されたと考えられる。

巨大宇宙嵐による地球周辺のプラズマ圏と放射線帯の変化を示す模式図
巨大宇宙嵐による地球周辺のプラズマ圏と放射線帯の変化を示す模式図。プラズマ圏の大規模な収縮と負の電離圏嵐に伴う回復の遅れにより、普段は超高エネルギー電子が増加しない領域でコーラス波による加速が起こったことを示す(提供:ERGサイエンスチーム)

今回、「あらせ」による電子の位相空間密度、プラズマ密度、コーラス波を組み合わせた観測により、「破れない壁」の内側でも、巨大な宇宙嵐の下では、超高エネルギー電子がその場で加速され、新たな放射線帯電子の供給源が形成されうることが明らかになった。このことは、これまで比較的安定と考えられていた地球近傍の宇宙空間(ジオスペース)でも、極端な宇宙天気環境の下では高エネルギー電子が著しく増加する可能性を示唆している。