硫黄原子を持つ過去最大の星間分子を検出
【2026年1月30日 マックスプランク研究所】
星間空間には様々な分子が存在し、彗星や隕石からも多種多様な大型の有機分子が見つかっている。とくに、硫黄(S)原子を含む有機分子は宇宙での生命の起源を考える上で重要だ。生命を形づくるたんぱく質や酵素には硫黄原子が含まれていて、生体内で起こる化学反応で硫黄原子は重要な役割を果たしている。
だが、これまで星間分子雲の観測では、硫黄を含む分子はほぼ6原子以下の小さなものしか発見されていなかった。実際には大きく複雑な硫黄化合物分子も星間環境に存在してよいはずだが、星間分子と彗星や隕石の有機物の間にこのような違いがあるという事実は、宇宙化学の大きな謎だ。
独・マックスプランク地球外物理学研究所(MPE)の荒木光典さんを中心とする研究チームは、実験室での実験と星間分子雲の観測を組み合わせることで、新たな星間分子「2,5-シクロヘキサジエン-1-チオン」(C6H6S)を検出した。宇宙で検出された硫黄を含む分子としては、これまでで最も大きいものだ。

今回発見された星間分子「2,5-シクロヘキサジエン-1-チオン」(C6H6S)」のイラスト。硫黄原子を含む六員環構造の分子が宇宙で見つかったのはこれが初めてだ(提供:MPE/ NASA/JPL-Caltech)
この分子は、天の川銀河の中心部にある分子雲「G+0.693–0.027」で見つかった。6個の炭素原子が環状に結合した六員環の構造を持つ炭化水素で、合計13個の原子からなる。過去に宇宙で見つかった硫黄含有分子の原子数をはるかに超える大きな分子で、地球外で発見されている他の様々な星間分子とも構造的に関連がある。今回の発見は、星間物質と私たちの太陽系との間に化学的な「橋」を架けるものとなる。
「星間空間で複雑な環状の硫黄含有分子を確実に検出したのはこれが初めてです。宇宙と生命の材料とを結びつける化学的なつながりを理解する上で、重要な一歩となります」(荒木さん)。
荒木さんたちは実験室で、チオフェノール(C6H5SH)という液体の物質に1000Vの放電を加えることで、チオフェノールと構造異性体の関係にある今回の分子を合成した。さらに、独自に開発した分光計を使い、C6H6S分子が放射する特有の電波の周波数を7桁以上の精度で測定した。この“電波の指紋”を使い、スペイン・ミリ波電波天文学研究所(IRAM)の口径30m電波望遠鏡と、同国イエベス天文台の口径40m電波望遠鏡を使った大規模サーベイ観測のデータから、この分子が放射する電波を見つけ出した。

今回の分子を発見した荒木光典さん(右)と、Christian Endresさん(左)。手前の装置が独自に開発したフーリエ変換マイクロ波分光計で、中央後ろにあるのは分子の生成と測定を行う真空チャンバー(提供:MPE)
「私たちの結果は、彗星でみられる分子と同様の構造を持つ13原子の分子が、まだ恒星が誕生していない若い分子雲にすでに存在することを示しています。この結果は、生命誕生の化学的な基盤が、恒星が生まれるよりずっと前の段階から始まっていることを証明するものです」(MPE Valerio Lattanziさん)。
今回の成果は、さらに複雑な硫黄含有分子がまだ検出されずに宇宙に眠っていることを示唆している。地球の生命の基本材料は、地球の誕生よりずっと前に、星間空間のどこかで作られたのかもしれない。
〈参照〉
- Max-Planck-Gesellschaft:New insights into the origins of the chemistry of life
- CISC-INTA:Astrophysicists Discover Largest Sulfur-Containing Molecular Compound in Space
- Nature Astronomy:A detection of sulfur-bearing cyclic hydrocarbons in space 論文
〈関連リンク〉
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