55億光年先の巨大構造「キングギドラ超銀河団」

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すばる望遠鏡による大規模探査から、大量のダークマターが密集し少なくとも19個の銀河団を含む巨大構造「キングギドラ超銀河団」が約55億光年の距離で見つかった。

【2023年1月25日 すばる望遠鏡

宇宙における巨大な天体と言えば、星やガスが集まった銀河が挙げられるが、重力によって一つにまとまった天体として宇宙最大規模と言えるのは、その銀河が大量のガスとともに集まった銀河団だ。ところが、その銀河団がさらに集まって「超銀河団」という巨大構造を形成していることもわかっている。ただし、その成り立ちなどについては不明なことだらけで、超銀河団の定義すら曖昧なままだ。

私たちの天の川銀河も、おとめ座超銀河団と呼ばれる超銀河団の内部に位置し、さらに周辺の複数の銀河団と超銀河団とともに、より大きなラニアケア超銀河団を構築している。つまり、超銀河団の成り立ちを知ることは、私たちの住む近傍宇宙の成り立ちを知ることにもつながる。

国立天文台ハワイ観測所の嶋川里澄さんの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」を用いた大規模観測「すばる戦略枠プログラム」の観測データを分析し、超銀河団の候補を100天体近く発見している。研究チームはその中でもっとも規模が大きいと見込まれるものについて、星の総質量とダークマターの分布を調べた。

おとめ座の東端あたりに広がるこの構造はおよそ55億光年先の宇宙に存在し、見かけの面積は満月約15個分もある。3つのダークマター密集領域を中心に、少なくとも19の銀河団を含むこの構造を、研究チームは「キングギドラ超銀河団」と呼んでいる。ダークマターの分布は、その重力によってさらに奥の天体からの光がわずかにゆがむ「弱い重力レンズ効果」を利用して解析されたもので、この手法で見つかった50億光年以遠の超銀河団としては、キングギドラ超銀河団は最大だ。

キングギドラ超銀河団
すばる望遠鏡がとらえた「キングギドラ超銀河団」。中央がその全貌で、左上の満月と同じスケールで表示されている。等高線は銀河の密度分布、赤はダークマターが密集した領域を表す。番号がついた四角は付随する銀河団の位置で、周囲はそれぞれの拡大図。画像クリックで拡大表示(提供:国立天文台)

また、宇宙論的シミュレーションとの比較から、キングギドラ超銀河団は太陽質量の10の16乗倍のダークマターを持っていることが示唆された。これは、おとめ座超銀河団のおよそ10倍に匹敵する。さらに、そのすぐ外側にも超銀河団相当の巨大構造が2つ確認されていて、ラニアケア超銀河団のような超巨大構造の前身なのかもしれない。

「実のところ今回ターゲットにした約55億光年先の宇宙で、すばる望遠鏡の戦略枠プログラムによる探査データからこのような超銀河団が見つかる確率は五分五分でした。今後は近く稼働予定のすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器(PFS; Prime Focus Spectrograph)や、ユークリッド宇宙望遠鏡を使って、3次元構造や内部の銀河形態などに迫っていきたいと思っています」(嶋川さん)。