「はやぶさ」の成果が科学雑誌「サイエンス」の特集に!

【2006年6月2日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース小惑星探査機 はやぶさ2014年8月29日更新

米・科学雑誌「サイエンス」が、日本の惑星探査としては初めて、小惑星イトカワ科学観測の特集号(6月2日号)を発行した。はやぶさが昨年9月中旬から11月下旬にかけて行った探査からは、今後のすべての小惑星探査に向けた重要な指標となる成果がもたらされている。誰も想像できなかった多様で複雑なイトカワの姿が明らかになったことで、小型小惑星の形成に関するまったく新しい知見がもたらされたのだ。特集号発行にあたっては、「サイエンス」編集長ドナルド・ケネディ博士からのお祝いの手紙が寄せられた。


(同縮尺の表面:小惑星エロス、イトカワ、地球上の画像) (イトカワのラフ地域とスムーズ地域の画像)

(上)同縮尺の表面:小惑星エロスの表面(背面)、イトカワ表面(左)、地球上の舗装道路と靴(右上)、(下)イトカワのラフ地域(岩塊からなる険しい地形)とスムーズ地域(比較的そろった小石からなる滑らかな地形)の画像。クリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

日本の惑星探査史上初めてとなる、米・科学雑誌「サイエンス」の「イトカワ科学観測の特集号」が6月2日に発行された。小惑星には、太陽系における惑星形成初期の情報がつまっているため、探査することに大きな意義がある。中でもイトカワは、火星・木星間の小惑星帯や地球付近に存在する小惑星としてはもっともありふれた「S型」に属するので、典型的な小惑星の姿がわかるのだ。イトカワを探査したはやぶさが、その構造や組成、そして起源を解き明かした。

遠目には比較的なだらかに見えたイトカワだが、間近で見た姿は意外なものだった。もっとも特徴的なのは、関係者の間で「ラッコ」と例えられた「頭」と「胴」にわかれた構造だ。一方、細部を見ると「ファセット」と呼ばれる曲面の一部を切り落としたような平坦面あるいは凹面が見られる。もともと、小惑星は大きな母天体が衝突により破壊され、その破片が寄せ集まることで形成されたという仮説があったが、イトカワに見られた2つの特徴はこれを支持するものであった。すなわち、母天体の破片が集まってラッコの頭と胴に相当する2つの天体を形成し、さらにそれら2つが合体したというわけだ。そして、かつて母天体の地形だった部分がファセットとして見えているのではないかと考えられる。

この「がれきの寄せ集め」モデルをさらに支持するのが、内部がすかすかであるという事実だ。はやぶさはイトカワのサイズを測定し質量を見積もって、その密度が1cm3あたりわずか1.9gしかないことを解き明かした(地球の場合は5.5g)。

他の小惑星には見られないイトカワの特徴も確認されている。それは、岩塊が多い「ラフ地域」と数センチから数mmの小石が広がる「スムーズ地域」という明確な二分性だ。ラフ地域とスムーズ地域との境界も、粒子の大きさの変化から明らかにされている。このような特徴を明らかにしたはやぶさの画像は、史上もっとも詳しい小惑星表面の画像であり、最接近したときの画像は1画素当たり6〜8mmの空間分解能だ。この分解能はもはや、探査機によるリモートセンシングの地質学というより、地球上で行われる岩石学調査と同レベルの情報量をもっている。このことは、同縮尺で比較された「小惑星エロスとイトカワ、地球上の比較」の画像からも明らかだ。

さらに、これまた小惑星としては初めて、色と明るさの両方に大きな不均一性が見られた。明るく青っぽい部分と暗く赤っぽい部分に分かれていたのだ。さらに、縁が明るい部分を拡大することで、明るい物質と暗い物質の混在も発見された。表面が宇宙風化で劣化し、たまたま隕石の衝突によってところどころではがされ新鮮な部分が現れたとすれば説明ができる。

一方、イトカワの組成自体は均一であり、表面のみかけの違いは粒の大きさと宇宙風化の度合いによってもたらされたものだ。地球のような惑星がそうであるように、岩石が一度溶かされれば成分は分かれてしまう。つまり、イトカワは太陽系誕生当初の成分を残し続けているのだ。そしてその成分は地球に落下してくる典型的な隕石とも一致する。はやぶさの探査によって、人類は初めてもっともありふれた小惑星の真の姿を目の当たりにしたが、それは同時に、過去の探査機が訪ねたどの小惑星よりも小さく、地球に衝突する危険性のある小惑星の姿でもあった。

はやぶさプロジェクトの意義は大きく、今後のすべての探査における重要な指標となる。「サイエンス」編集長のドナルド・ケネディー博士は特集号発行を祝う手紙の中で「小惑星は何でできているのか、そしてどのような姿をしているのか。数十年もすれば、はやぶさによって撮影されたイトカワの写真がきっかけになったという宇宙科学者が現れることでしょう」と延べ、日本の宇宙科学研究のレベルの高さを賞賛している。

<はやぶさの現状>

なお、2006年5月現在の探査機はやぶさは、2台のイオンエンジン(B、D)の試験が5月の連休前後に行われ、いずれもイトカワ到着前と変わらない良好な状態であることが確認されている。地球帰還には2台の運転で十分であり、キセノンガスも現時点では、足りるとされている。しかしながら、交信・運用には問題はないものの、(詳細は今後発表される予定だが)いくつか検討すべき大きな問題があり、探査機はとても正常な状態とはいえず、宇宙航空開発機構のはやぶさプロジェクト・チームの帰還に向けた努力の日々はまだまだ続きそうだ。

2014年8月29日更新

掲載論文の1つ「はやぶさ探査機による小惑星イトカワの蛍光X線分光観測」について、論文中の蛍光X線データの解析方法に誤りがあったことから、主著者らがサイエンス誌に対し論文の撤回を申し入れた(JAXA宇宙科学研究所「はやぶさXRSに係る論文撤回の申し入れについて」)。「イトカワの元素組成は地球に多く飛来する隕石(普通コンドライト型隕石)と同じ組成である」という論文の主な結論についてはその後のサンプル分析により解明され、結果として影響はない。

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