木星の両極を取り囲む不気味な巨大サイクロン

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NASAの探査機「ジュノー」によって、木星の南北両極が巨大な渦に取り囲まれている様子が初めて撮影された。また、木星大気のジェット気流についても、これまでの予想を覆す多くの発見があった。

【2018年3月13日 NASA

NASAの木星探査機「ジュノー」は2011年に打ち上げられ、2016年7月に木星を53日周期で周回する長楕円の極軌道に投入された。これまでに近木点(木星に最も近づく点)でのフライバイ(接近通過)を10回行い、木星の雲の上端から3500kmという低空を通過して雲やオーロラを観測してきた。11回目の科学観測フライバイは4月1日から始まる予定だ。

これまでの観測で、木星の大気やジェット気流について驚くべき発見がいくつもなされている。これらの観測成果が4編の論文として『Nature』3月8日号にまとめて掲載された。これらの成果を紹介しよう。

極地方の巨大なサイクロン群

今回発表された成果の中で最も目を引くのは、新たに撮影された木星の極地方の美しい画像だ。これはジュノーの赤外線オーロラマッピング装置(JIRAM)で得られたものだ。JIRAMは木星の雲の上端から深さ50〜70kmまでの対流圏から届く赤外線をとらえることができ、昼夜によらず撮影が可能である。

今回初めて明らかになった木星の極の様子は、低緯度地方でお馴染みのオレンジ色の「縞(belt)」や明るい「帯(zone)」とはまったく異なっている。北極点にはサイクロンが1つあり、その周りを直径4000〜6000kmの8個のサイクロンが取り囲んでいる。南極点にもサイクロンがあり、その周りを直径5600〜7000kmの5個のサイクロンが取り巻いている。

木星の北極付近
ジュノーのJIRAMで撮影された木星の北極付近の赤外線画像。北極点のサイクロン1つの周囲を8個のサイクロンが取り巻いている。色が明るい部分ほど熱放射が多い、つまり下層からの赤外線を遮る雲が薄く、温度が高いことを示す(提供:NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM、以下同)

木星の南極付近
JIRAMで撮影された木星の南極付近の赤外線画像。南極点のサイクロン1つの周囲を5個のサイクロンが取り巻いている。北極の画像とは明暗が反転していて、色が明るい部分ほど下層からの赤外線を遮る雲が厚いことを示す。雲の厚さに応じた3D凹凸表示もされている

「北極に見られるサイクロンの直径は約7000kmで、イタリアのナポリから米・ニューヨークまでの距離とほぼ同じです。南極のサイクロンはもっと大きなものです。これらの暴風の風速は時速350km(秒速97m)に達します」(伊・宇宙空間天体物理学惑星学研究所 Alberto Adrianiさん)。

これらの「極域サイクロン」は南北ともに、複数の渦が非常に密に並んでいて、隣り合う渦が接するほど近い。しかし、互いにこれほど近接しているにもかかわらず、個々のサイクロンは合体することなく、観測を行った7か月間にわたってそれぞれ形を保っていた。太陽系の他の天体でこのような現象は見られない。「不思議なのは、サイクロンがなぜ合体しないのかということです。探査機『カッシーニ』が観測した土星の場合、両極には大きなサイクロンの渦が1つあるのみでした。ガス惑星はみな同じ性質を持っているわけではないようです」(Adrianiさん)。

重力場からわかる木星の内部

木星の帯や縞の「根っこ」がどのくらいの深さまで続いているのかという疑問は数十年にわたる謎となっている。今回ジュノーによる重力観測から、この疑問に対する答が得られた。

ジュノーの観測で明らかになった木星のジェット気流の深さ(提供:NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI)

「ジュノーの観測によれば、木星の重力場は北半球と南半球で非対称になっており、これは木星の帯や縞が南北で非対称になっている様子とよく似たものでした」(伊・ローマ・ラ・サピエンツァ大学 Luciano Iessさん)。

木星のようなガス惑星の内部は固体ではないので、重力の非対称性は惑星の深い場所を流れるガスが源となっているはずだ。ジェット気流の厚みが深いほど、その気流はより多くの質量を含むため、その場所の重力場は強くなる。このことから、重力場の非対称性の度合がわかればジェット気流の深さを決めることができる。

観測結果によると、木星の気象層(weather layer、対流圏の中で雲などの気象現象が生じる層)の厚さはこれまでの推定よりもずっと深く、大気の表面から3000kmの深さまで続いており、その質量は木星質量の約1%(地球質量の3倍)に達するという驚くべき結果が得られた。木星の強いジェット気流を駆動している正体やメカニズムを理解する上で重要な発見だ。

「対照的に、地球の大気は地球質量の約100万分の1しかありません。木星でこれほど質量の大きな領域が東西方向の帯に分かれてばらばらの速度で自転しているという事実は驚きです」(イスラエル・ワイツマン科学研究所 Yohai Kaspiさん)。

木星表面の縞や帯はそれぞれ別々の速度で自転(差動回転)しているが、今回の重力場データから、木星の気象層より下では木星の物質はほぼ剛体回転(同じ速度で一体となって回転)していることが示唆されている。

「これは本当にびっくりする結果です。ジュノーの今後の観測によって、気象層と剛体回転層との境目がどうなっているのかもわかるかもしれません。今回のジュノーの成果から、他の惑星や系外惑星の大気運動についても推定することができます。私たちの見積もりでは、差動回転している気象層の厚さは、土星では少なくとも木星の3倍の厚さになり、質量の大きな巨大惑星や褐色矮星では木星より浅くなると考えられます」(フランス・コートダジュール大学 Tristan Guillotさん)。

「ガリレオが400年前に木星を観測して以来、今日まで、縞模様については表面的な理解しか得られていませんでした。今回、ジュノーの重力場観測によってジェット気流の深さを知ることができ、表面に見えている雲の下の構造についても明らかになりました。これは2次元の画像がHDの3D画像に変わったようなものです」(Kaspiさん)。