銀河の「ダビデ」と「ゴリアテ」

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合体する運命にある2つの銀河をハッブル宇宙望遠鏡がとらえた。小さい方の銀河は、その小ささにもかかわらず、隣の大きい銀河の構造や星生成に大きな影響を与えている。

【2017年8月4日 ヨーロッパ宇宙機関

旧約聖書には巨人「ゴリアテ」が羊飼いの少年「ダビデ」に倒されたという逸話が記されているが、その話を思わせるような大小の銀河のペアがハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された。大きいほうの銀河「NGC 1512」は棒渦巻銀河というタイプで、銀河の中心にガスや塵、星から成る棒状構造が見られる。一方の「NGC 1510」は矮小銀河だ。2つの銀河は、とけい座の方向約3000万光年彼方に位置している。

銀河「NGC 1512」と「NGC 1510」
銀河「NGC 1512」(左)と「NGC 1510」(提供:NASA, ESA/Hubble, CC BY 4.0)

NGC 1512の棒状構造は、星生成に必要な材料を外側のリング状構造から銀河の中心へと運ぶ漏斗のような役割を果たしている。運ばれたガスと塵によって、直径2400光年の青く輝く内側の円盤「核周辺スターバースト・リング」では激しい星生成が進んでいる。この棒状構造とスターバースト・リングの少なくとも一部は、やがて合体する運命にある2つの銀河が4億年ほど前から互いに影響を及ぼし合ってきた結果形成されたと考えられている。またNGC 1512の外側のリングにも、穏やかな星生成領域が見られる。

実はNGC 1512はこの画像に見えるよりも遠くまで広がっており、不格好な巻きひげのような腕がNGC 1510を包むように渦巻いている。この巨大な腕は、NGC 1510との強い重力的な相互作用と、NGC 1510からの物質降着の影響で歪められると考えられている。さらに、相互作用はNGC 1512だけでなくNGC 1510にも大きな影響を及ぼしており、ガスと塵が巻き上げられた結果、小さい銀河では大きい銀河よりも激しい星生成が引き起こされた。小さい銀河が青っぽく輝いて見えるのは、高温の新しい星々の存在を示すものだ。

NGC 1512の強力な重力の影響を受けているのはNGC 1510だけではない。2015年に行われた観測から、NGC 1512の腕の外側の領域が、過去には別のもっと年老いた銀河の一部であったことが示された。その銀河は引き裂かれてNGC 1512に吸収されてしまったのだ。そして現在はNGC 1510がそのプロセスの途中にある。

銀河のダビデとゴリアテは、互いのサイズが大きく異なっていても、銀河間で起こる相互作用を通じて構造に大きな影響が及ぶことや、ガスや塵の動きが変わり爆発的な星形成が引き起こされることを示している。こうした相互作用、とくに衝突や合体は、銀河の進化に重要な役割を果たすものなのだ。

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