クローズアップでとらえられた、崩れゆく池谷・村上彗星

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地球から約1億km彼方で池谷・村上彗星が一部崩壊している様子を、今年1月にハッブル宇宙望遠鏡が詳細に観測した。複数の塊がゆっくりと離れていく様子がとらえられている。

【2016年9月23日 NASA

池谷・村上彗星(332P/Ikeya-Murakami)は、2010年11月に池谷薫さんと村上茂樹さんが発見した、公転周期約5年半ほどの周期彗星だ。今年3月ごろ、発見以来最初の太陽への最接近(回帰)をしたが、そのおよそ2か月前、まだ太陽から2億4000万kmも離れていたころの彗星をハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した。

今年1月にHSTが3日間かけてとらえた一連の画像には、彗星から分裂した塵と氷からなる25個の破片が宇宙を漂い、ゆっくりとした速度で彗星から離れていくようすがとらえられている。ばらばらになった破片は約4800kmにわたって散らばっている。

池谷・村上彗星
2016年1月26日から28日にかけて撮影された池谷・村上彗星のアニメーション動画(提供:NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA))

「彗星の崩壊は時折見られるものですが、なぜ、そしてどのようにばらばらになるのかは、よくわかっていません。問題は、崩壊がなんの予兆もなく突然起こるので、詳しいデータを取得する機会があまり多くないということです。今回はHSTの高解像度のおかげで、小さくかすかな彗星の破片が見られるだけでなく、日毎の変化も見ることができ、最高の観測が可能になっています」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 David Jewittさん)。

3日間の観測では、彗星の破片の明るさが自転に伴って(表面の氷に太陽光が当たるかどうかで)変化する様子や、ばらばらになるにつれて形が変化している様子もとらえられている。総量は元の彗星の4%ほど、大きさはそれぞれ20~60mほどのようだ。また、親彗星が2~4時間で自転していることや、差し渡しの大きさが約480mと従来の見積もりよりもずっと小さいことなども明らかになった。

観測データから考えると、彗星が太陽に近づいて暖められると表面からガスや塵が噴出し、その結果彗星の自転速度が上昇することによって、物質が彗星の表面から離れて宇宙空間へと漂っていったようだ。破片が飛び出したのは昨年10月から12月にかけてとみられている。

「これまでは、彗星は太陽の光で暖められ氷が蒸発してしまって一生を終えると考えられてきました。あとには何も残らないかもしれないし、活発な活動を起こした彗星があったところに物質の残骸が残るかもしれません。しかし、分裂のような現象がより消滅プロセスに大きく寄与する可能性が見えてきました。池谷・村上彗星の場合、彗星が分裂・崩壊して忘却の彼方へと消えていく、そのプロセスを見ているのかもしれません」(Jewittさん)。

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