宇宙初期から現在に至る世界最大規模のダークマターシミュレーション
【2015年5月7日 国立天文台】
宇宙には電磁波で観測可能な物質のほかに、重力による相互作用でのみ存在を検知できるダークマター(暗黒物質)が存在するといわれている。ダークマターは通常の物質の5倍程度存在すると考えられ、宇宙における重力的な構造形成や進化に主要な役割を果たしている。
銀河の周囲にはダークマターハロー(以下、ハロー)とよばれる、銀河の10倍ほども広がる巨大な構造がある。ハローは小さいものから形成され、合体を繰り返して大きく成長し、その内部で銀河や銀河団が作られていく。ハローの空間分布をシミュレーションで明らかにすれば、その中の銀河などの空間分布も推定することができるはずだ。
ハローの分布や構造の変化を解明するため、千葉大学、東京経済大学、愛媛大学、東京大学、文教大学による研究グループは、理化学研究所計算科学研究機構のスーパーコンピュータ「京」や国立天文台の「アテルイ」の強力な計算パワーを活かして、宇宙初期から現在にいたる約5500億個ものダークマター粒子の重力進化を計算した。
ダークマターの分布の進化。空間スケールが異なる2種類のシミュレーション(上段)一辺約54億光年、(下段)一辺約3.3億光年。より明るいところほど密度が高い(提供:Ishiyama et al. (2015)、以下同)
シミュレーションの空間サイズは最大で一辺がおよそ54億光年にも及ぶ。これほど大きい空間でのシミュレーションとしては世界最高の分解能で、銀河スケールのハローの階層的形成を追うシミュレーションとしては世界最大規模だ。
1枚目のパネル一部を順に拡大したもの。右下はこのシミュレーションで形成した一番大きい銀河団サイズのハロー
また、最大規模のシミュレーションの他に、空間サイズやダークマター粒子の大きさが異なる複数のシミュレーションも行っている。質量スケールに換算しておよそ8桁にもおよぶ範囲でのハローの構造形成史がモデル化され、初期宇宙から現在にわたって矮小銀河から銀河団におよぶ多種多様な天体の形成、進化過程、そして空間分布を探ることが可能になった。
国立天文台のリリースページではシミュレーションの可視化映像を見ることができる。
〈参照〉
- 国立天文台: スーパーコンピュータによる、宇宙初期から現在にいたる世界最大規模のダークマターシミュレーション
- 千葉大学: スーパーコンピュータによる、宇宙初期から現在にいたる世界最大規模のダークマターシミュレーション (PDFファイル)
- 計算基礎科学連携拠点: スーパーコンピュータによる、宇宙初期から現在にいたる世界最大規模のダークマターシミュレーション
- HPCI戦略プログラム分野5: スーパーコンピュータによる、宇宙初期から現在にいたる世界最大規模のダークマターシミュレーション
- The Astrophysicla Journal Letters: The ν2GC Simulations : Quantifying the Dark Side of the Universe in the Planck Cosmology 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト: http://www.cfca.nao.ac.jp/
- 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト: http://4d2u.nao.ac.jp/
- The ν2GC simulations: http://www.imit.chiba-u.jp/faculty/nngc/ 本研究シミュレーションデータベース
- スーパーコンピュータ「京」: http://www.aics.riken.jp/
- 計算基礎科学連携拠点: http://www.jicfus.jp/
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