電波観測装置と量子コンピューターに共通する部品の超小型化を実証

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国立天文台の研究チームが、信号の逆流を防ぐ部品である「アイソレータ」の超小型化を実現する技術の実証に成功した。この技術は電波観測装置に加え、量子コンピューターへの応用も期待される。

【2023年7月11日 国立天文台先端技術センター

次世代の計算機として開発が進む量子コンピューターでは、極低温部に設置された量子ビットにマイクロ波を当てて、その状態を増幅器で読み取る。このとき、信号が逆流すると量子ビットの状態が壊れてしまうため、増幅器との間に信号の向きを制御する「アイソレータ」という部品が置かれる。

一方、国立天文台が開発している電波観測装置でも、極低温部に設置された超伝導センサーが電波をとらえ、センサーからの信号を増幅器で読み取るが、その間にはやはり逆流を防ぐアイソレータが置かれている。

研究成果のイメージイラスト
今回の研究成果のイメージイラスト(提供:国立天文台、以下同)

アイソレータは様々な電子回路で使われているが、最も一般的なのは磁性体を利用したもので、原理的にその大きさを数cm単位(典型的には3cm×3cm×1cm)より小さくすることが困難だ。だが、アイソレータを小型にしなければ、センサーをたくさん並べた多素子電波カメラや、多数の量子ビットを擁する本格的な量子コンピューターは実現しえない。

国立天文台の増井翔さんたちの研究チームは、電波観測装置にも利用される「周波数ミキサー」を2つ使い、位相制御装置と組み合わせてアイソレータとすることを発案して、理論と実験の両面で実証した。このアイソレータは、全て基板上の平面回路で構成できるほど単純で、集積回路にすることで大きさはmm単位、体積は従来に比べて3桁以上小型できることになる。

アイソレータの構成
今回発案されたアイソレータの構成。周波数ミキサーを2個使用し、位相制御回路を用いて局部発振波の位相を調整することによって、信号が流れる方向の制御が可能となり、全体としてアイソレータの機能を有する。100円玉は大きさの比較用

今回の開発では市販の周波数ミキサーが使用されたが、電波観測装置では超伝導体を使った「SISミキサー」が利用されている。研究チームはこれまでに、このSISミキサーを使った雑音の少ないマイクロ波増幅器も開発し、実証してきた(参照:「高画素電波観測を実現する、新型増幅器登場」)。そこで、アイソレータにSISミキサーを組み込めば、信号が流れる方向を制御しつつ、増幅もする装置が実現できることになる。

「電波観測装置と量子コンピューターには、共通する開発要素があります。電波や可視光線・赤外線などの観測装置開発の知見を積んできた国立天文台では、先端技術センター内に社会実装プログラムを設置し、量子コンピューター適用プロジェクトチームを結成して技術開発を進めてきました。今回の全く新しい原理によるアイソレータの開発は、その成果の一つです。電波天文学と量子コンピューターという2分野にブレイクスルーをもたらす開発を今後も進めていきたいと考えています」(国立天文台 鵜澤佳徳さん)。