月のマントルの組成は場所や深さで違う

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月探査機「かぐや」のデータ解析から、月のマントルの組成が場所または深さによって異なることを示す地質学的な証拠が発見された。

【2023年6月9日 産総研地質調査総合センター

月の内部は地球と同じように、地殻・マントル・核に分かれていると考えられている。月面の暗い模様である「海」の多くは、過去に巨大隕石の衝突でできた大きな衝突盆地が玄武岩質のマグマで埋められた地形だ。

月の表側にある衝突盆地の周辺には、かんらん石を豊富に含む岩体が分布している。これらの岩体は、衝突盆地を作った巨大隕石の衝突で月の深い場所から掘り起こされたマントル物質だと考えられている。

一方で、月の裏側の南半球にも「南極エイトケン盆地」という巨大な衝突盆地がある。こちらの周囲にも、衝突で掘り起こされたマントル物質に由来するとみられるレゴリス(大小の隕石衝突がくり返されて粉砕された砂など)が堆積しているが、このレゴリスの分光観測では、低カルシウム輝石(LCP)という鉱物が多いとされている。

このように、月のマントル起源とみられる物質の種類が場所や観測によって違っているため、月のマントルの主成分がかんらん石なのか低カルシウム輝石なのかについては、長く議論が続いていた。

マントル由来物質の分布
「かぐや」の観測で得られた、南極エイトケン盆地(左)と雨の海盆地(右)でのマントル由来とみられる岩体の分布。白が低カルシウム輝石(LCP)、赤がかんらん石に富む岩体がある場所。背景は「かぐや」による地形データで、色が赤いほど標高が高い。東経0度(E0°)が月の表側、西経180度(W180°)が裏側の中央経度となる。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA宇宙科学研究所プレスリリース、以下同)

産業技術総合研究所地質調査総合センターの山本聡さんを中心とする研究チームは、日本の月探査機「かぐや(SELENE)」(2007~2009年)が可視光線や近赤外線で観測した膨大な画像や分光データを使い、低カルシウム輝石に富む岩体が月面全体にどう分布しているかを調べた。

その結果、低カルシウム輝石に富む岩体は表側の北半球にある「雨の海盆地(インブリウムベイスン)」と南極エイトケン盆地の周囲に集中して見つかり、これらの地域ではかんらん石に富む岩よりも低カルシウム輝石に富む岩の方が多いことがわかった。

また、物質の種類と地形の関係を調べたところ、低カルシウム輝石に富む物質は山頂の急斜面や小さなクレーターの壁面など、宇宙風化をあまり受けていない(=レゴリスの堆積が少ない)新鮮な露頭に多く存在していた。これはつまり、「かぐや」が検出した低カルシウム輝石は、様々な由来の物質が混ざっているレゴリスではなく、確かにマントルから掘り起こされた岩体を見ているのだと考えられる。

低カルシウム輝石の分布
雨の海盆地の北東にある「アルプス山脈」付近の鳥瞰図。青い部分に低カルシウム輝石に富む岩体が露出している

このことから、研究チームでは、雨の海盆地と南極エイトケン盆地を作った巨大衝突では、主に低カルシウム輝石に富むマントル物質が掘り起こされたと推定している。

ところが、別の衝突盆地である「モスクワの海」や「危機(危難)の海」の周辺にはかんらん石に富む岩体しかなく、低カルシウム輝石に富む岩体は見つからなかった。

危機の海、モスクワの海周辺
危機の海(左)とモスクワの海(右)の周辺での、マントル物質由来とみられる岩体の分布。この地域では低カルシウム輝石の岩体(白)は見つからない。画像クリックで表示拡大

これらの結果を総合すると、マントル由来の岩石の種類は衝突盆地ごとに異なっていて、マントルの組成は実は月の中で均質ではないことになる。不均質さの理由の一例としては、月のマントルの上層がかんらん石、下層が低カルシウム輝石に富む層構造になっていて、巨大隕石衝突で掘り起こされたマントルの深さが違っていたという可能性が考えられるという。また、月は表と裏で地形や地質が大きく異なる「二分性」があることから、実際に月の場所ごとにマントルの組成が違っている可能性もある。

月のマントルがこのように深さ方向や水平方向に不均質な組成を持っているのは、かつて月面が大量の隕石衝突で融けてマグマで覆われていた「マグマオーシャン」の時代に、鉄やチタンを含む物質が深い層へ沈み、かんらん石や輝石などの軽い物質が浅い層に浮き上がる「マントル転覆」という現象が起こったせいかもしれない。

今後、こうした衝突盆地の周辺を探査したりサンプルリターンを行うことで、月のマントルの構造や組成、進化の過程を解き明かす手がかりが得られると期待される。