宇宙で最初に形成されたイオンを初検出

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宇宙で最初に形成されたイオンである「水素化ヘリウムイオン」が、惑星状星雲から初めて検出された。

【2019年4月25日 NASA

ビッグバン直後の宇宙に存在した原子は、ほとんどが水素とヘリウムだけだった。ビッグバンから約10万年後、この2種類が結合し、宇宙で最初の分子(イオン)である「水素化ヘリウムイオン」が形成されたと考えられている。その後、水素化ヘリウムイオンと水素原子が結合して水素分子が作られ、宇宙で最初に誕生した恒星の主要な材料となった。

水素化ヘリウムイオンは現在の宇宙にも存在するはずだとみられ、1925年には実験室でこのイオンを合成することにも成功したが、これまで実際に検出されたことはなく、数十年にわたって探されてきた。その候補天体の一つが、はくちょう座の方向約3000光年彼方に位置する惑星状星雲「NGC 7027」である。星雲中に存在する年老いた星からの紫外線放射や熱が、イオン形成に適した環境を作り出していると考えられたからだ。

独・マックスプランク電波天文学研究所のRolf Güstenさんたちの研究チームは、NASAの航空機望遠鏡「SOFIA」を使って水素化ヘリウムイオンを探す研究を行った。SOFIAは高度約14000mまで上昇し、観測の妨げとなる大気の層よりも高度の高い成層圏から観測を行う。「SOFIAは搭載機器を変えられるので、最新の技術を利用することができます。その柔軟性のおかけで観測能力が向上し、研究者が答えを必要としている問題にも応えることができます」(SOFIA副プロジェクトサイエンティスト Naseem Rangwalaさん)。

研究チームでは、水素化ヘリウムイオンを検出できるようにテラへルツ波受信器「GREAT」をアップグレードして、2016年にNGC 7027を観測した。そして見事に、水素化ヘリウムイオンの存在を示すシグナルをはっきりととらえることに成功した。「水素化ヘリウムイオンを見つけるには、正しい場所を適切な機器を使って観測する必要があったのです。SOFIAは完璧にミッションをこなしました」(米・SOFIA科学センター Harold Yorkeさん)。

惑星状星雲「NGC 7027」と、水素化ヘリウムイオンのイラスト
惑星状星雲「NGC 7027」(左上)から検出された、水素化ヘリウムイオンの構造のイラスト(右下)(提供:NASA/ESA/Hubble; Processing: Judy Schmidt)

今回の発見によって、水素化ヘリウムイオンが実際に宇宙に存在する証拠が得られ、初期宇宙から現在まで進んできた複雑な化学に関する、基本的な理解における重要な部分が裏付けられた。「あの場に居合わせ、水素化ヘリウムイオンの存在を示す初のデータを目にしたことは、実にエキサイティングでした。長きにわたったイオン探しはハッピーエンドに終わり、初期宇宙における基本的な化学に関する疑問が取り除かれました」(Güstenさん)。

水素化ヘリウムイオン初検出の解説動画(提供:NASA/Ames Research Center)