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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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068(2010年2〜3月)

超新星2010mb in NGC 3389

2010年2月22日深夜を過ぎて、01時50分から冬季五輪のカーリングを見始めました。どうせ見るなら家に戻って『寝っころがって見よう……』と、自宅に戻りました。すると、02時42分に長野の大島雄二氏から携帯に電話があります。大島氏と言えば、彗星の位置観測をされている方で、これが初めてのコンタクトでした。『彗星観測者の大島さんですね。どうかしましたか』とたずねると、「はい。系外銀河NGC 3373に超新星状天体(PSN)を見つけました」と話します。私は、驚いて『彗星の観測だけでなく、そんなことをやっているのですか』と問いかけると、「はい。ときどき捜索しています」とのことでした。そこで『今、自宅にいるのですが、これからオフィスに戻りますので報告を送っておいてください』と伝え、見始めたテレビを切ってオフィスに戻ってきました。03時05分のことです。

大島氏からの報告は02時57分に届いていました。そこには「2月21日01時34分にNGC 3373を撮影した4枚の画像上に16.5等の超新星を見つけました」という箇条書きしかありませんでした。これでは、明らかに情報不足です。そこで03時11分に『極限等級、銀河中心位置、フレームの露光時間、CCDの種類、比較したDSSの極限等級、移動のなしの確認時間等を報告ください』というメイルを返しておきました。03時14分になって今夜の確認のため、上尾と山形にこの情報を送っておきました。そして、氏のメイルに添付されていた発見画像を見ました。NGC 3373は不規則銀河のようでした。そのとき、ふと『この銀河、一度見たような気がする……』と思いましたが、気に留めませんでした。03時20分に大島氏に発見報告の形式について連絡しました。氏からは03時36分に「画像の極限等級は約17.5等、銀河中心位置は赤経α=10h48m28s、赤緯δ=+12゚31'59"、露光時間は240秒、比較したDSS(Digital Sky Survey)はPOSS/2UKSTU Redですが、その極限等級不明です。01時34分〜03時15分の間に移動はありません」という報告があります。

この夜は晴天でした。しかし、午前03時を過ぎると上尾との連絡が取れないことがあります。そこで、03時36分に『時間が取れたらこれを確認してもらえませんか』というメイルをつけて、美星にもこの情報を送付しました。03時42分に再び大島氏に連絡し、DSSのおよその極限等級を聞きました。そして『銀河中心の位置を精測でください。飽和して測定できないなら、ソフトの表示値を読んでください』と伝えました。この位置は03時49分に送られてきます。これで発見報告に必要なデータがそろいました。そこで、03時58分にダン(グリーン)に氏の発見を報告しました。大島氏からは、04時18分と34分には「受け取りました。出現位置を再測定しました」と連絡があります。ひと段落した04時38分になって、大島氏には『PSNは、微妙な所に出ていますね。DSSにないのなら、超新星だと思いますが、HII領域の増光では……という可能性もあるかもしれません。ただ、超新星は、こういう位置に出やすいことも確かですが……。ところで、いつも、彗星の観測、がんばっておられるのを拝見しています。もし可能でしたら、私の方にカーボン・コピーしていただけると助かります。なお、面倒でしたら結構ですが……。ところで、再測定の位置は、最初の位置とずいぶん違いますが、移動しているということを意味するのでしょうか。それとも、訂正した方が良いのでしょうか。なお、PSNの観測も彗星の観測フォーマットで送ってください。必ず、時刻をつけてください』というメイルを送っておきました。

04時40分、上尾の門田健一氏から「今夜はどんより曇っています。そろそろ作業を終えます」という連絡があります。氏は、まだ起きていたようです。しかし、曇天ではどうしょうもありません。氏には、04時45分に『えぇ……、期待していたのですが、お休みなさい』という返事を送っておきました。04時48分には、大島氏より出現位置について「位置は移動しておりません。訂正です」と連絡があります。04時54分には、再度、門田氏より「寝支度をしながらベランダから空の様子をうかがっていますが、全天曇っています。今夜はダメですね」という連絡があります。これで上尾での確認はあきらめました。05時01分と05分には、とりあえず、大島氏の再測定値をダンに連絡しておきました。

ところで、上尾は曇天とのことで、今夜の確認はあきらめていたのですが救いの女神はどこにでもいるものです。05時25分に美星の西山・奥村氏から「NGC3373に出現したPSNの、美星スペースガードセンターでの測定値です。位置が10秒ほど違うようです。当所での位置測定誤差は±1秒以内と推定されますが……。なお、光度は18.1等ですが、Wフィルターでの撮影のため、等級誤差は2等ほど見積もっておいたほうが良いと思います」というメイルとともにその確認観測が届きます。そこで、05時42分にダンにこの観測を知らせておきました。この時期、中央局のサーバにトラブルがありました。そのため、これら一連のメイルが届いているか心配なので、06時27分、まったく異なる件でダンにメイルを送りました。ダンから返信が届くまでの間には、06時35分に大島氏から「過去画像がありましたので添付します。画像は、2009年1月4日に撮影したものです。300秒露出です」というメイルとともに過去画像が届きます。氏が送ってきた画像を比べると、確かに発見位置には何かがあるようでした。

美星からの確認報告があって、この星の確認作業は、一見順調に進んでいるようでした。ところが07時24分に山形の板垣公一氏から「大島さんの発見した超新星は、2009md(本誌2010年10月号参照)です」という連絡があります。『そんな馬鹿な……。過去に出現した超新星は、すべて調べた……』と思っていると、07時33分と34分にダンから「美星のWフィルターとは何なんだ。抜けたCBETをこれから送るが、我々のサーバ上から取れないのか。しかし、なぜメイルでこれらを得ていないのかは不思議だ……」というメイルが届きます。これで発見報告が届いていることは確認できました。しかし、板垣氏の指摘を伝えなければなりません。そこで、氏の言うSN 2009mdを探しました。すると、この超新星2009mdは、NGC 3389に出現しています。出現位置は、大島氏と美星からの位置に一致しています。ということは、大島氏がNGC番号を間違えていたのです。そこでダンに07時37分に『申し訳ない。Itagakiからちょっと前に電話があった。彼は、Ohshimaの発見した超新星は、CBET 2065に公表されたNGC 3389に出現したSN 2009mdで、この超新星はItagaki自身が発見したものだ。出現位置もあっており、彼の言うことは正しい。Ohshimaは、NGCナンバーを間違えたのだろう。私の方でも、出現リストをサーチしたときにKeyとして、3373を使用したので、抽出できなかった』というメイルを送りました。さらに07時53分に『CBETを受け取った。ありがとう。私もWフィルターについては、何もわからない。美星では、位置観測には、このフィルターを使っているようだ。しかし、これを知ることは必要なくなった。最近、サーバへは、ログインできなくなっている。なお、これらのCBETが届いていないのは私だけではないようだ……』というメイルを送っておきました。すると、08時10分にダンから「IAUC 91118とCBETs 2176-2181は、お前の方に届いているのか」という問い合わせがあります。そこで、08時17分に『Yes. きみの示した回報は、無事届いている。サーバが安定したのではないか……』と返答しておきました。

その夜(2月22日)、オフィスに出向いてくると大島氏から20時06分に「私の確認ミスでした。直近の超新星データしか確認していませんでした。銀河の名称というよりも、過去の超新星出現位置をよく確認すべきでした。いろいろとありがとうございました。彗星の観測ですが、今後、観測した際には中野さんへもデータをお送りします」というメイルが届いていました。『大島さん。ありがとうございました。超新星捜索、今後もがんばってください』。

超新星2010ai in PGC 126792と、再帰新星V407 Cyg

2010年3月6日、この夜は神戸の野村敏郎氏が来島します。19時00分に氏からの電話で起こされました。氏は、もう到着しているとのことです。そこで、ジャスコにあるマクドナルドでちょっと待ってもらうことにしました。そして、19時25分に自宅を離れ、野村氏を拾って、20時10分にオフィスに出向いてきました。すると、16時32分に千葉県の野口敏秀氏から「3月6日発行のCBET 2194に報じられている「SN 2010af in NGC 3172」ですが、発見前日、3月3日夕刻に撮影した捜索画像上に写っていましたので報告いたします。光度は17.1等でした。同日の画像と過去画像を参考までに添付します。母銀河から離れていたので見逃していました。残念!」というメイルが届いていました。氏のメイルを見た山形の板垣公一氏からは17時31分に「これは残念ですね。それにしても銀河から離れ過ぎですよね。次の幸運を祈ります」という返信も送られていました。野村氏とは、21時半までオフィスで雑談しました、

21時55分発の高速バスで野村氏が帰った後、野口氏からの報告を処理することにしました。氏の画像を見ると、なるほど、銀河から大きく離れています。『これじゃ、無理だよね……』と思いながら、氏の報告を同夜22時39分にダンに送付しておきました。そこには『こんなに母銀河から離れているのに、これは本当に超新星なのか。銀河系内の星ではないのか。あるいは、小さな銀河が近くにあるのか……』という注釈をつけておきました。ダンは、その疑問に答えるように3月11日11時02分到着のCBET 2197で「この超新星は、極大光度から数日が過ぎたIa型の超新星である」というスペクトル観測を公表しています。

その翌日、山形の板垣氏から2010年3月12日03時43分に、上尾の門田健一氏宛てに確認用に送られた1通のメイルが届きます。氏は、また超新星を発見したようです。門田氏からは04時03分に「こちらは午前03時前から雲に覆われて、現在はベタ曇りです。今月初めから悪天候続きで、昨夜は晴れたのですが長続きしません」というメイルが送られてきました。04時15分には、門田氏宛てに「無名銀河のナンバーを調べてほしい」というメイルが門田氏に送られます。私の方からは、05時05分に『USNOカタログによると発見位置に恒星(16.2等)か、何かがありますが……。送っていただいたJPEGと比べると、これは銀河中心でしょうね』という情報を送っておきました。

板垣氏の最初の連絡から2時間半が過ぎた06時05分になって「遅くなりすみません。無名の小さな銀河に16.9等の超新星状天体を見つけました」という連絡とその報告があります。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年3月12日明け方、03時07分にかみのけ座銀河団にある無名銀河を15秒露光で撮影した捜索画像上に16.9等の超新星状天体を発見し、その後に撮られた10枚以上の画像上にこの出現を確認しました。この超新星は、同銀河を2010年2月25日に捜索したときには、まだ出現していませんでした。また、過去の捜索画像上、およびDSSにもその姿は見られません。超新星は、銀河核から西に12"、南に1"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。

『やっと来たか……』とその処理を始めようとしたそのときのことです。06時09分に群馬県嬬恋村の小嶋正氏から「3月12日にはくちょう座を撮影した赤経α=21h02m.15、赤緯δ=+45゚46'.7の位置に7等級の新星らしき天体があります。確認をお願いいたします。デジタル・カメラによります」という報告があります。しかし、これでは発見報告として不十分です。そこで06時23分に『これでは、不十分です。次のものを報告ください。発見画像の枚数と過去画像の枚数、それらの極限等級、調べた過去画像の枚数と日時(+極限等級)、機材(マウント名+カメラ名+f値+焦点距離)、変光星・小惑星とのチェック、確認したカタログ(DSSなど)、移動の有無の確認、名前の読み方と英語綴り、住所、それと発見画像(星に印をつけて)と過去画像を送ってください』というメイルを送りました。

そして、まず、板垣氏の発見をダンへ送付しました。06時37分のことです。小嶋氏からは、まだ連絡がありません。そこでAAVSOのウェッブ・サイトで発見位置から変光星を探ると、発見位置から8'ほど離れたところにV2436 Cyg(7.9等、変光周期10.5日)があります。しかし、同時に表示されていたこの星、V407 Cygは、変光範囲が7.9等〜17.0等となっていたため、『デジタル・カメラではこの星は写らない……』と考えてしまい、このとき、その位置を確かめませんでした。小嶋氏からの発見位置と同じ位置が画面に表示されていたのに……です。そのため、小嶋氏には、07時56分に『返答がありませんが、V2436 Cygではありませんか。あなたの位置とは、8'ほど違いますが……。もしこの星でないならばこの星を確認してください。あなたの画像に写っているはずです』というメイルを送っておきました。

すると、08時10分に小嶋氏から「キヤノンEOS 40Dデジタルカメラ+50mm f/2.8レンズを使用して、2010年3月12日明け方、03時56分に、はくちょう座を撮影した2枚の捜索画像上に約7等級の星が出現していることを見つけました。極限等級は11.5等級です。1月29日、2月23日、24日の画像上には、その姿は見られません。移動は確認できません。なお、ご指摘の星とは違うようです」という発見報告と発見画像が送られてきました。小嶋氏の発見画像から、その出現位置と光度の測定を始めると、板垣氏から09時05分に氏の発見について「あらためておはようございます。拝見しました。ありがとうございます」というメイルが届きます。それから30分後には、測定が終了し、その出現位置は、赤経α=21h02m10s.18, 赤緯δ=+45゚46'30".8、その光度を測光すると12日朝の光度は7.3等、画像の極限等級は12.2等となります。50mmの短焦点レンズにしては星像はひじょうに良く、暗い星まで写っています。きっと、嬬恋村は空がものすごく良いのでしょう。もちろん、出現位置は、短焦点レンズで撮影された画像からの測定ですので多少の誤差があります。そこで、この発見をダンに報告しました。09時30分のことです。小嶋氏がこの報告を見たという連絡を受け10時25分にオフィスを離れました。

その夜(3月12/13日)にオフィスに出向くと、11時53分にCBET 2199が届いていました。そこには、小嶋氏が発見した新星状天体は、1936年に出現した新星、はくちょう座V407の増光であったことが報告されていました。この星は、九州の西山浩一・椛島冨士夫氏が3月11日04時半頃に撮影した捜索画像上にも6.8等でとらえられていました。とにかく、これで小嶋氏の発見は一件落着です。

続いて14時14分には、門田氏から「板垣氏の発見した超新星の出現銀河はPGC 126792である」という調査が届いていました。その4分後の14時18分に到着したCBET 2200には、その超新星はSN 2010aiとなって公表されていました。この超新星には、マクドナルド天文台で行われているROTSE超新星サーベイから3月8日の独立観測が報告され、さらに3月11日15時頃にはスペクトル観測も行われ、その極大前2日のIa型の超新星であることが報告されていました。このCBET 2200を見た板垣氏からは17時01分にお礼状が届いていました。板垣氏の発見も公表されました。これで二件落着となります。

その夜の明け方、3月13日05時17分になって、ダンに『すばやくV407 CygとSN 2010aiをCBET上に公表してくれてありがとう。Kadotaは、SN 2010aiの母銀河がPGC 126792であることを指摘している。ところで、V407 Cygについては、AAVSOのウェッブ・サイトを検索したときに気づいてはいたが、その光度が17.0等となっているために位置のチェックを怠った。申し訳ない……』というメイルを送っておきました。そして、06時30分、新天体発見情報No.158を発行し、報道各社にお二人の発見を伝えました。

ところで、07時57分に小嶋氏宛てに『あなたからの報告では、V407 Cygは2010年1月29日(極限等級11等)、2月23日、24日(同12等)に撮影された画像上には写ってないとのことですが、西山・椛島氏の観測から、この頃この星は9等級でした。極限等級から考えて写っていないはずがないと思います。このことは、CBET 2199にも記載されていますので、もし写っていれば訂正しなければなりません』という質問を送っておきました。小嶋氏からは、その夜の3月13日20時47分になって「CBET 2199を見たとき、私も不思議に思いました。今回の発見時の比較画像は2月24日の画像でした。このとき、この画像上に9等位の星が存在すれば変光星だと思い、その後の処理はどうなっていたか……と思います。なお、V407 Cygの南約2'に、ステラナビゲータによればGSC 3588.646(9,4等)があります。私のいくつかの画像にもこの恒星は明瞭に写っています。CCDとデジタル・カメラの写りの違いもあるのでしょうか。私のEOS 40Dは無改造です。ISO 3200、露出は20秒ですべて同じ条件の画像です。参考までに3画像を送信します。画像処理は何もしてありません。なお、それ以外にも、1月27日、2月16日、19日、20日(極限等級11〜12等級)の比較的条件の良かったときの画像を調査しましたが、いずれにも10.5等よりも明るい星は、発見位置に見あたりません」という連絡があります。このことは、3月14日06時03分になってダンに伝えておきました。

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