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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

062(2009年11〜12月)

たて座新星V496 Scuti=Nova Sct 2009

板垣氏の超新星2009krが確認・公表された夜(2009年11月8日)のできごとです。この日の夕刻は20時00分に自宅を出発し、南淡路まで出かけました。最後に洲本のジャスコで買い物をして、21時50分に自宅に戻ってきました。空は曇っていました。そして、自宅で出発の準備をしていた23時18分に携帯が鳴ります。発見は続くものです。そのため『また板垣さんか。でも、まさか……』と思って、携帯を取ると、掛川の西村栄男氏からの連絡でした。氏は「たて座に何か新しい天体の出現があるでしょうか」とたずねます。『いや、今日朝まではなかったと思います』と話すと「今夕18時前に撮影した画像上に8等級の明るい新星状天体(PN)を見つけました」と話します。そこで『これからオフィスに出向きますので、報告を送ってください』とお願いしました。

急いで身支度を整え、その夜、オフィスに出てきたのは23時40分のことです。しかし西村氏の発見報告は、まだ届いていませんでした。氏の報告が届いたのは23時48分のことです。そこには「Canon EOS 5Dデジタルカメラとミノルタ120mm f/3.5望遠レンズを使用して行っている新星サーベイで、11月8日夕刻、17時52分にたて座を10秒露光で撮影した2枚の捜索画像上に8等級の新星を発見しました。発見前日の11月7日にも同領域を捜索していましたが、その画像上には11.5等級より明るい新星の姿は見られません。また、2008年に行った多くの捜索画像上にも、その姿はありませんでした」という発見報告がありました。さらに23時54分には、発見画像が氏から届きます。前日の捜索画像に新天体の姿がないということは、新星は、この1日の間に急激に増光したことになります。処理は急がねばなりません……。

まず、西村氏の発見を中央局に伝えることにしました。そこで、AAVSOのウェッブサイトで西村氏の発見位置近くに変光星が存在していないかを調べました。すると、新星の出現位置近くには、SS Sctという8等級台を変光する明るい変光星があります。この星は、発見位置から南に約7'の位置に存在しています。11月9日00時11分に西村氏に電話をかけ、この星が発見画像に写っているか調べてもらうことにしました。すると00時16分に西村氏から「写っています。確認しました。発見した星はこの変光星ではありません」という連絡があります。そこで00時28分に氏の発見をダン(グリーン)に報告しました。そのメイルには『Nishimuraから発見画像が届いているので、これから測定する』ことを伝えておきました。20分後には、その出現位置の測定が終わり、00時50分に『新星の出現位置とその測光光度が8.8等、氏の極限等級は12.0等であった』ことを連絡しました。この発見は、すぐセンターの未確認天体のリストに入れられました。

01時23分に上尾の門田健一氏から「夕空ですので平日は観測できませんが、早々に確認されることを願っています。今夜の夕方は晴れていましたが、ほどなく曇ってきました。夜半過ぎに星が見えてきたので観測を再開したのですが、再び曇ってきました……」という連絡があります。また、夜が明けた07時07分には大崎の遊佐徹氏から「たて座のPNについての情報、ありがとうございます。10時すぎに、ニューメキシコ州メイヒルにある望遠鏡を遠隔操作してねらってみます。ただ、今のところメイヒルは天気がよくありません。オーストラリアのムールックでは20時前には観測できます」という連絡、07時54分には、山形の板垣公一氏から「おはようございます。拝見しました。明るくなることを期待します。こちらは天気が怪しいです」というメイルがあります。板垣氏のこの連絡の直後の07時58分には、仲間に新天体発見情報No.149を発行し、板垣氏による超新星2009krの発見(9月号参照)を伝えました。そして、郵便局によって、09時30分に帰宅しました。

帰宅後は、遊佐氏からのメイルに注意していなければなりません。というのは、氏がニューメキシコの望遠鏡を遠隔操作してこの新星を確認できる場合、報告はこの日の昼間になります。案の定、氏から12時38分にメイルが届きます。そこには「たて座のPNを以下のとおり、メイヒルの25cm f/3.4反射望遠鏡を使ったリモート観測で確認しましたので報告します。光度は11月9日10時34分に8.3等でした。5秒露光、6フレームをコンポジットした画像から測定しました。カタログは、位置測定がUSNO-B1.0、光度測定はHipparcos(Johnson V、2星と比較して平均)、フレームの極限等級は16.0等です。なお、10時10分から観測を始め、当初30秒露出・15秒露光で撮影しましたが、サチってしまい、5秒露光に落ちつきました。26分間の間、12コマ撮影しましたが、どのフレームにも存在が確認されます。移動はありません」と報告されていました。

ところで、氏のこのメイルの到着に気づいたのは14時でした。そこで、ダンへの報告を作成し、遊佐氏の確認観測を伝えたのは14時08分でした。すると、そのあとメイル・ホルダーを見ると、13時12分にすでにCBET 2008が届いていることに気づきます。そこには西村氏の新星発見が伝えられていました。それによると「この新星は、イタリーのギドーとソステロが、米国ニューメキシコにある25cm f/3.4反射望遠鏡(遊佐氏が使用したのと同じ望遠鏡)を遠隔操作して、11月9日11時頃に存在することを確認していました。彼らの光度は8.5等」と報告されていました。『な〜んだ、もう公表されたのか。遊佐氏の観測は、彼らより少し早いのに伝えられなかった。申し訳ない……』と思っていると、14時16分にダンより「すでにCBET 2008に発見をアナウンスしてしまった。この新しい観測は、明日に発行するIAUCに入れよう」というメイルがありました。ダンには、14時31分に『メイリング・リストの1行上にあったCBET 2008が届いているのに気づかなかった』という返信を送っておきました。

その日(11月9日)の夜、西村氏からは23時30分に「たて座の新星ですが、今回も中野さんには、たいへんお世話になりありがとうございました。もう発見は無理かと思っておりましたが、天候が味方してくれたのと、中野さんの迅速な処理で発見者になれましたこと、本当にうれしく思っております……。あらためてお礼を申しあげます」というお礼状が届きます。その日の業務の終了時、11月10日06時23分には、新天体発見情報No.150を報道各社に送りました。07時23分、遊佐氏から「おはようございます。さきほど、新天体発見情報を拝見しました。昨日の報告は、オフィスからご自宅に戻られてからの時間だったかと思います。お疲れのところ、中央局へのご報告ありがとうございました。いつもながら、迅速な処理に感謝申しあげます。西村さん、たて座新星のご発見、まことにおめでとうございます。星がひじょうに密集する領域で、明るく輝いていました。今後、さらに明るくなることを期待しています」というメイルもあります。

その夜、オフィスに出向くと、13時38分に門田氏から「中野さん、遅くまで(昼間まで)対応されてご苦労さまでした。西村さん、このたびのご発見おめでとうございます。板垣さんの超新星発見に続いて、日本人の活躍はとても嬉しいです。もしよろしかったら、アストロアーツのWEBニュースに画像を添えたいので、発見画像をお借りできないでしょうか。遊佐さん、リモート観測で大活躍ですね。日本の空が悪天候の場合や、天体が地平線下でも確認できるので心強いです。確認観測の画像をWEBニュースにお借りしようと思っています」というメイルが届きます。さらに13時57分、遊佐氏からは「確認画像の件、どうぞご自由にお使いください。光栄に存じます。今後ともよろしくお願いします」という返信がありました。そして、11月11日04時08分にはIAUC 9093が届き、この新星は各地でスペクトル確認され、その名称がV496 Sctとなったことが公表されました。しかし、そこには、遊佐氏の確認観測は出ていません。ダンはいろいろと忙しく、CBET 2008の記述をそのままコピーしてIAUC 9093を編集したため、追加を忘れてしまったのでしょう。

エリダヌス座新星KT Eridani=Nova Eri 2009

山形の板垣公一氏は、21cm f/3.0パトロール望遠鏡で、11月25日21時52分にエリダヌス座を撮影した捜索画像上に8.1等の新星状天体を発見しました。この天体は、22時04分に即座に60cm反射望遠鏡で確認されました。氏の調査によると21cm望遠鏡で撮影した画像上に15.3等の星が写っているとのことでした。この発見は、九州の山岡均氏から中央局に報告されました。氏によると「ASASサーベイでも、この星は11月19日に7.3等、22日に8.0等、24日に8.1等と明るく写っている。また、発見位置にある15等級の星が7等級ほど増光したのなら、それは矮新星の増光としては大きすぎる。しかし、通常の新星としてはちょっと小さすぎる」とのことです。この発見は、11月26日11時12分到着のCBET 2050で新星状天体として公表されました。公表から半日ほどの間に、この天体はギドーとソステロによって、ニューメキシコにある25cm望遠鏡で26日17時過ぎに確認されました。また、国内でもスペクトル観測され、新星であったことが11月27日02時22分到着のCBET 2053で公表されました。

すると、上尾の門田健一氏から02時59分に板垣氏宛てに「新星のご発見、おめでとうございます。昨夜は曇天で観測できませんでしたが、すぐにCBETでPossible Novaとして公表されましたので、ひと安心でした。WEBニュースに発見時の画像をお借りしました」というメイルが転送されて届きます。板垣氏からは、07時43分に「ありがとうございます。昨日は一日中歯医者でした。朝の9時から午後5時近くまで昼飯も抜きで一人で貸切です。こんなの先生も初めてとのことでした。近く抜歯する1本の歯を除き、すべてに手を入れました。6本の根が折れた為に噛み合わせを変えたのです。奥の歯は2.0mm高くしたようです。そんなことで、昨日は二度とあり得ない変な日でした。新星でよかったです」という返信が届いていました。そこで、あとになって『私にも画像を送ってください』というメイルを送っておきました。

それから10日が過ぎた12月7日01時58分になって、板垣氏からこの発見についての総括が届きます。そこには「山岡氏によると、発見位置にある星が新星になったとすれば、発見光度8.1等は中途半端な明るさになるとのことです。結果として、発見の数日前には5等星半ばで輝いていたようです。こんな位置は誰も捜索していないのかもしれません。でも、ASASで何回も撮影していながらどうして発見できなかったのかも不思議です。私は彗星捜索をしていて見つけたものです。今回の新星発見も、すべてが金田さんのお陰です」となっていました。なお、板垣氏も書かれているように12月2日10時22分到着のIAUC 9098には、その発見前の光度観測が時刻順に11月14日に5.7等、5.4等、5.6等、17日に6.9等、6.7等、6.6等、18日に7.0等の明るさで写っていたことが報告されています。新星は、11月中旬には5等級まで明るくなっていたようです。

超新星2009md in NGC 3389

12月5日明け方、何気なく山形の板垣公一氏に電話を入れました。通信状態が悪く、いったん電話が途切れてしまいましたが、03時54分に板垣氏から、もう一度電話がありました。その50分後の04時44分に再び、板垣氏から電話があります。『何だ……まだ話し足りないのかなぁ……』と思って、電話に出ると、氏は「超新星を見つけました」という連絡でした。そこで『はい、報告を待っています』と答え、電話を切りました。

ところが1時間以上が経過しても、板垣氏からは発見報告がありません。そのため、06時05分に『まだ。来ないよ……』という催促の電話を入れました。氏からの報告は06時26分に届きます。そこには「2009年12月5日早朝、04時21分頃に60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、しし座にあるNGC 3389を15秒露光で撮影した捜索画像上に16.5等の超新星状天体(PSN)を発見しました。その後に撮られた多数の画像上にこの星を確認しました。その間の60分間に移動はありません。画像の極限等級は19.0等です。このPSNは、11月8日に同銀河を捜索したときには、まだ出現していませんでした。また、過去の捜索画像上およびDSS(Digital Sky Survey)にもその姿は見られません。なお超新星は、銀河核から西に24"、北に3"離れた位置に出現しています」と書かれてありました。

氏の報告は、07時35分に中央局に送付しました。そして09時20分に自宅に戻りました。すると、09時07分に板垣氏から「あらためておはようございます。メイルを拝見しました。ありがとうございます。先ほど報告が遅くなったのは、直近画像を調べるのと画像をネット上に貼り付けるのに、とんでもなく時間がかかったためです。でも一番の原因は、電話後ほんの少しだけ捜索したことです。私は今夜、一泊での忘年会です。門田さん、遊佐さん。よろしくお願いします」というメイルが届いていました。板垣氏は、最初の発見報告後、もう一度捜索をしたようです。きっと、この夜は良く晴れていたのでしょう。大崎の遊佐徹氏からは、10時10分に「板垣さんのPSNの件、了解しました。ニューメキシコは今のところ晴れています。日本時間17時前後には筒を向けられると思います」というメイルが届きます。一瞬『困ったなぁ……』と思いました。というのは、この日はちょっと遠出をしなければなりません。そのため、オフィスに出向くのは、その夜の深夜になってしまうからです。

そんな訳で、その夜、オフィスに出向いてきたのは、12月6日02時25分になってしまいました。すると前日16時46分には、門田健一氏より「昨夜は曇天でしたので早めに休んでいました。今日は午後から雨が降り始めましたが、明日は晴天の予報ですので、明け方に天候が回復することを期待しています」というメイル、さらに17時05分に遊佐氏から「メイヒルはよく晴れています。PSNと同じ方向に電柱がありますので、もう少し高度が上がるのを待って筒を向けてみます」という連絡が届いています。そして、18時37分には、遊佐氏から「板垣さんの超新星らしき天体について、ニューメキシコにある25cm反射望遠鏡を遠隔操作して、12月5日18時00分に確認観測に成功しましたので報告します。観測時のPSN光度の光度は16.7等でした。位置と光度は、各60秒露光した10フレームをコンポジットした極限等級18.0等の画像から測定しました」という確認観測、さらに19時35分には「月明かりと、いまひとつクリアーではない空で、極限等級が浅い画像です。ただし、どの画像にも写っていますので存在は確かです」というメイルとともにその画像が届いていました。

遊佐氏の確認観測をダンに送付したのは12月6日02時46分になっていました。すると、それから半時間ほどが経過した03時28分に門田氏から「天候が回復して、PSNを確認できました。以下の位置に恒星像が存在します。PSNの光度は16.8等でした。25cm f/5.0反射で、120秒露出の12フレームをコンポジットして測定しました。位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)です。なお、フレームの極限等級は19.2等でした」という報告が届きます。しかし、このとき、遠出の疲れで仮眠していました。06時頃に起き上がって、門田氏の確認観測が到着していることに気づき、06時27分に氏の確認観測をダンへ送付しました。その夜が明けた08時36分に板垣氏から「おはようございます。メイルを拝見しました。私は忘年会で一泊でのお酒の席、そんな中、観測、そして報告をしていただき、ありがとうございました」というお礼のメイルが届きます。ダンは、板垣氏のこの発見を09時22分に到着のCBET 2065で公表してくれました。

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