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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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067(2010年2月)

超新星2010U in NGC 4214

2010年2月5/6日夜は、この冬一番の寒波が到来していました。夜半過ぎ、00時42分に携帯が鳴ります。山形の板垣公一氏からの発見報告でした。氏の電話は「今、栃木の観測所に来ています。超新星を見つけました。これから送ります」という連絡でした。氏の報告は00時49分に届きます。そこには「こんばんは。超新星状天体(PSN)です。よろしくお願いします。この銀河(NGC 4214)はかなり近い銀河です。まもなく報告します。少し時間を下さい」となっていました。また、出現位置と出現光度が16.0等であることが書かれてありました。そして、氏からの正式な発見報告が届いたのは01時37分のことです。氏の報告には「栃木県高根沢町にある観測所で30cm f/7.8反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年2月6日深夜、00時13分にりょうけん座にあるNGC 4214を20秒露光で撮影した捜索画像上に16.0等の超新星状天体(PSN)を発見しました。このPSNは、その後の60分間に60秒露光で撮られた10枚以上の画像上に確認しました。その間、移動はありません。なお、PSNは同銀河を2010年1月25日に捜索したときには、まだ出現していませんでした。また、過去の捜索画像上およびDSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られませんでした。超新星は、銀河核から東に20"、北に27"離れた位置に出現しています」とPSNの出現位置と銀河中心の測定位置が書かれてありました。

板垣氏の発見報告を見た上尾の門田健一氏から01時51分に「望遠鏡を向けて画像2枚を確認したところ、発見位置に星が写っています。しばらく撮像して報告します」という早々とこのPSNを確認したという連絡があります。そこでまず、板垣氏の発見に門田氏からの情報をつけて、01時57分にこの発見をダン(グリーン)に報告しました。その門田氏からの報告は03時17分に届きます。そこには「25cm f/5.0反射望遠鏡を使用し、発見同日2月6日02時02分に120秒露光で撮影した16枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました。観測光度は16.3等でした。なお、観測の直後に雲が行き来するようになり、現在は大部分が曇っています」と書かれてありました。この氏の報告は03時29分にダンに送付しました。03時41分には、門田氏より「早速の対応、どうもお手数でした。確認画像をお送りしておきます。晴れ間が少なくなってきました。このまま雲の通過を待つか、明日の晴天を期待して作業を終えるか、悩ましい状態です」というメイルとともに確認画像が送られてきました。氏の画像を見ると、銀河の北東部に小さく輝く、この星が可愛く写っていました。『少し不規則銀河なのかなぁ……』と思って、その画像を見ました。門田氏の確認を知った板垣氏からは03時54分に「中野さん、報告を拝見しました。ありがとうございます。門田さん、確認観測ありがとうございます。この銀河はとても近いです。母銀河内で吸収が少なければかなり明るくなるはずです。また何かと研究の対象になりそうな銀河(超新星)です。爆発前の親星がわかるかもしれません。楽しみです。写りが悪くなったので外に出てみたら、かなりの雪が降っていました」というメイルが届きます。いずこも天候が悪くなってきました。明日は早起きして世俗との付き合いがあるために、板垣氏のメイルを読んだ後、04時00分にオフィスを離れ帰路につきました。この冬一番の寒波襲来とあって、寒い夜明け前でした。

2月6日は、夕刻18時40分にオフィスに出向きました。すると大崎の遊佐徹氏より18時50分に「米国にある25cm反射を使用して、2月6日17時16分にこの超新星の出現を確認した」ことがダンに伝えられていました。氏の光度は16.6等とのことです。この夜は東日本は晴れているようです。しかし、この日深夜には、京都まで出かけ、とんぼ返りで戻ってこなければなりません。23時50分に京都に向け出発しました。2月7日01時45分に京都に着くと、急にどかどかどか……と雪が降り始め、たちまち、5cmほど積もりました。『これは大変。オフィスに戻れなくなる……』と急いで用をすませようとしたそのとき、01時51分に板垣氏から携帯に電話が入ります。氏は「超新星を確認しました」という連絡でした。氏には『今、京都にいます。これからしばらくして帰ります。2時間くらいかかります。観測を送っておいてください』と答え、所用を済ませ急いで帰路につきました。

オフィスに戻って来たのは、04時40分のことです。すると01時57分に板垣氏から「昨夜はありがとうございました。NGC 4214はとても近い銀河ですね。マゼラン銀河のSN 1987A出現以来、3本の指に入る近さでしょうか。超新星がIa型で、母銀河での吸収がなければ10等より明るくなるかも……。でも、残念ですがとても大きな吸収がありそうです。今夜の観測です。2月6日22時38分に15.9等でした。銀河の明るさを差し引くと17.1等となります。近い銀河の為にハッブルの画像がありました。それを添付します」という確認観測、そして、02時41分には門田氏からも「NGC 4214のPSNを観測しました。よろしくお願いします」というメイルとともに00時56分に行われた確認観測が届いていました。氏の光度は16.3等でした。両氏の観測は、1月7日04時51分と04時53分にダンへ送付しました。その重要性を感じたのか、ダンは、05時51分に到着のCBET 2161で早々とこの超新星発見を公表しました。板垣氏からは、06時29分に「何かとありがとうございます。おかげさまでSN 2010Uとして公表して下さいました。この近い銀河にしては暗すぎです。すごい吸収を受けていると思います」というメイルが届きます。そのメイルの最後には「ところで、この星は矮新星でしょうか?」とへびつかい座に見つけた10等級の星の位置が書かれてありました。氏の発見にもう反応があったようです。07時40分に届いた板垣氏からの連絡では、英国のアンドレアに発見画像を送ったことが伝えられてきました。

1月8日03時51分になって、CBET 2163が届きます。そこには、この超新星2010Uは、LBV(Luminous Blue Variable=高光度青色変光星)であることが伝えられていました。まぁ単純に考えて、他の銀河に出た大型の変光星というところでしょうか。06時27分に板垣氏の発見した星は、とりあえず超新星発見として新天体発見情報No.156を報道各社に送りました。このことについては、同日17時52分に門田氏から「このたびのご発見、おめでとうございます。近い銀河に出現したにも関わらず暗いことを指摘されていました。SN 2006jc出現の2年前に発見された星と同様のLBVだったようですね」というメイル、20時11分には、板垣氏から「こんばんは。何かとありがとうございます。私は重力崩壊型で吸収の大きな超新星だと思っていました。私、まだまだ修業が足りません。LBVとは大きな恒星表面の「水素」を放出する現象とのことです。SN 2006jcの2年前の増光は水素ではなくヘリウムの放出だったので、LBVと似た現象と言われています(水素はすでになくなっていた)」という返答がありました。なお、板垣氏によると、その後の観測から、この星は系外銀河に出現した「新星」であったという報告があるとのことです。

門田氏からは、21時48分に板垣氏が問い合わせていた彗星の観測について氏の極意「測定の自動化によって、位置観測に添えられた光度はコマを含まない核光度に近いものがほとんどで、コマが広がった彗星は全光度より暗く報告されています。2等くらいの差があると、機材や空の条件によって観測できる/できないの判断がまったく違ってきますので、彗星の現状を把握するためには、全光度が重要だと思っています。こちらでは、手間がかかりますが、彗星の消長を把握するために測光用の恒星カタログを使い、彗星とスカイ、恒星とスカイ(複数)をそれぞれ手作業で指定して、全光度を出しています。1つの彗星の測定に位置と光度で1時間以上かかることがあり、微光彗星や悪条件で写り具合がよくない場合は、さらに時間を要します。年間で数百時間は測定に費やしているでしょう。体調については、なるべく長い期間観測を続けるために、観測数を少しずつ減らして睡眠時間に充てて体調を維持しようと思っています。とりあえずの方針としては、風や雲で空の状態がよくない日は、観測を見合わせるか早めに終えるつもりです。条件がよい日に観測すると効率はずっといいですので……。疲れている日でも、観測システムを立ち上げたら、あともう少し頑張ろうという気持ちになってやめられなくなり、布団の中で半分寝ながら望遠鏡を制御していたことがあります。そこまでやらなくても彗星は逃げることはないので、無理せず気楽に観測を続けます」というメイルが送られていました。『門田さん。無理せず、体調の管理には充分に注意してください』。ところで板垣氏がへびつかい座にとらえた星は、門田氏から1月8日17時56分に「すでにご存知と思いますが、V2673 Oph(へびつかい座新星2010 No.1)ですね」という指摘が届いています。なお、以下の新星とは別物です。

※門田・板垣氏のメイルにある超新星2006jcについては、本誌2007年5月号、または天界2009年10・11月合併号にその紹介があります。この超新星は多くの研究者の研究対象になりました。

へびつかい座新星 Nova Oph 2010 No.2 = V2674 Oph

2月19日06時38分、掛川の西村栄男氏より電話があります。「へびつかい座に9等級の新星状天体(PN)を発見しました。これから報告いたします」という連絡でした。氏からの報告は、06時54分に「いつも大変お世話になります。早朝からお願いですみません。よろしくお願いします。過去画像は今から調べますが、2月14日05時22分に2枚撮影した捜索画像にはその姿がありません。極限等級は11等です。すぐに画像をお送りします」というメイルとともに届きます。さらに06時57分、07時52分、08時00分には、発見画像、過去画像の情報などが送られてきます。その間の07時44分には、山形の板垣公一氏から「本日、栃木にでかけます」という連絡があります。そのため、氏には『西村氏から新星の発見報告があったので、確認をお願いします』と伝えておきました。

さて、西村氏からは「2月19日早朝、キヤノン EOS 5Dデジタルカメラとミノルタ 120mm f/3.5望遠レンズを使用して、05時16分にへびつかい座を13秒露光で撮影した2枚の捜索画像上に9等級の新星を発見しました。発見前の2月3日、5日、6日、8日と2月14日に同領域を捜索していましたが、その画像上には、11等級より明るい新星の姿は見られません。また、2009年2月から10月までに行った多くの捜索画像上にも、その姿はありませんでした」と報告されていました。すでに夜が明けています。そのため、西村氏から送られてきた画像からその出現位置と光度を測定し、ダンに報告することにしました。出現位置は、赤経17h26m32s.19、赤緯が-28゚49'36".3、そして出現光度が9.4等と測光されます。これらの情報をダンに送付したのは2月19日08時05分のことでした。そして、09時05分に帰路につきました。空は薄雲がかかっていましたが、何とか晴れていました。

その夜(2月19/20日)、オフィスに出向くと19時21分に西村氏から「先ほど仕事から帰ってきました。今朝は新星らしき天体の報告処理をいただき、ありがとうございました。お休みになる時間だったと思います。いつもご親切に本当にありがとうございました。もしこれが新星だったら、たて座新星(2009年11月発見)が10.5等くらい、へびつかい座新星(2010年1月発見)が11等くらいで、私の関与した3つの新星が空に輝いていることになり、新星の捜し家としてはうれしい限りです。これも中野さんのお陰と深くお礼申し上げます。ありがとうございました」というメイルが届いていました。深夜には上尾の門田健一氏から01時39分に「こちらは低空に薄雲がかかっていますが、晴れています。昇ってきたら確認しますが、南東の電線エリアに引っかかりそうですので、通過待ちになるかもしれません」という連絡がありました。『上尾で確認できそうだ……』と氏からの報告を待つことにしました。

しかし新星の確認第1報は、04時44分に栃木にいる板垣氏から届きます。氏の報告には「おはようございます。かなりの低空での観測ですがOKです」と、その出現位置と光度が報告されていました。氏の光度は9.0等でした。板垣氏の報告は05時24分にダンに送付しました。するとその1分前の05時23分に、待っていた門田氏からの報告が届いていました。そこには「電線エリアに引っかかり、さらに雲の通過を待っていましたので遅くなりました。以下の位置に明るい恒星が存在します」というメイルとその出現位置と光度が8.9等であることが書かれてありました。さらに門田氏は、発見位置から12"以内にある近接星も調べてくれました。氏の調査では、発見位置のそばに15等から17等級の数個の星があります。氏のこれらの報告は05時29分にダンに送付しました。門田氏からは、05時38分に確認画像が送られてきます。その画像を見ると『9等星ともなるとCCDではこんなに明るく写るのか……』と思えるほど、新星は、大きく写っていました。ダンは06時12分に到着のCBET 2176で、この天体を新星状天体の発見として公表してくれました。西村氏の発見は新天体発見情報No.157で報道各社に送り、その発見を伝えました。そこには『……なお、この新星の発見で西村氏の新星発見は12個となり、倉敷の故本田実氏の新星発見数(11個)を上回りました』という情報を伝えておきました。

さて、時間が少し空いたので、私の方で見つけていた周期彗星P/2009 WJ50(La Sagra)の同定をOAA/CSのEMESで仲間に伝えました。そこには『すでにIAUC 9117でその発見が紹介されているこの彗星は、小惑星としての同定2009 WJ50=2005 JR71が報告されていました。しかし、2005年2月に行われていた一夜の観測群の中にさらに次の観測が見つかり、その連結軌道を次のように計算しました。2005年の観測時の近日点通過は、2004年11月15日でした』というコメントを入れておきました。2月21日03時47分になって、門田氏から「西村さん、このたびの新星発見、誠におめでとうございます。続けてのご発見には驚きました。寒い時期ですが、夏の天の川を熱心に捜索されているのでしょう。もしよろしかったら発見画像をお借りできないでしょうか。アストロアーツのWEBニュースに掲載させていただきます。中野さん、お待たせしてお手数をおかけしました。迅速な手配と公表、ありがとうございました。いつもどおりの確認対応ができてよかったと思います。板垣さん、素早い観測でしたね。こちらの観測所は、南東の空はルーフと電線にじゃまされて、明け方の天の川に出現した新星を狙うときは視界を気にしながら奮闘(?)しています。こちらの確認観測は、高度10゚ほどで向けてみたところ、南東の電線エリアを通過中でした。しばらく、待とうと思ったのですが、西から雲が迫っていましたので、20日03時57分頃に25フレームを撮像しました。電線を通過しながらの低空観測で写りがよくなかったのですが、影の影響が少ないフレームをコンポジットして測定を始めました。位置、光度を測定して近接星をリストアップしたところで、晴れ間が見られました。そこで04時48分頃にもう一度16フレームを撮像したところ、良好な像でしたので、雲が写りこんでいないフレームをコンポジットし、再度測定して報告しました」というメイルが届きます。低い空での確認作業は、けっこう大変なものです。ご苦労様でした。なお、この新星は、この日の朝に各地でスペクトル観測され、その出現が確認されています。

発見から2日が過ぎた2月22日20時11分に西村氏から「今回も中野さんの迅速な処理により発見者となることができました。本当にありがとうございました。今回は、晴れた地域もあったと思いますが、CBATに早く掲載されたため、発見報告をためらった方もあったかもしれませんね。昨年(2009年)の暮れに札幌の金田さんのご厚意でCCDGのソフトを頂き、本格的に使いはじめて、すぐの発見になりました。このソフトにより照合時間が半分以下になり、本当に助かっています。新星探しのライバルにこのようなソフトを提供する心意気に感動しています。中野さんにおかれましても、私のように自分のことだけを考えている者に本当に親切にしていただき、改めて感謝を申し上げます。ありがとうございました」というメイルが届きます。門田氏からは、氏への「へびつかい座に続けての新星発見、重ねてお祝い申し上げます。微力ながら新天体発見のサポートを楽しませていただいています。新発見の瞬間に比べますとドキドキはずっと少ないはずですが、確認観測で未知の光を捉えた時はワクワクします。画像をお送りいただき、お手数でした。小さく明瞭に写っていますが、広い視野をチェックするには、かなりの根気が必要でしょう。アストロアーツニュースに掲載させていただきました。ありがとうございます。新星を示す線を明るくしておきました。西村さんの画像には、新星より3'ほど東側に位置するASAS J172647-2850.0(17 26 47.00-28 50 00.0)が写っていないようですね。CCDの確認画像には、新星よりわずかに明るく写っていました」という返信が2月23日03時24分に転送されて届いていました。

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