Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2021年2月号掲載
未来の勇者に贈る知恵のカプセル

小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセル帰還成功は、2020年の日本にとって大きな明るいニュースだった。今回のミッションには大勢の研究者や技術者が関わっているが、そのなかには「子供のころ宇宙(開発・探査)に憧れて進路を選んだ」という人がたくさんいる。きっと今回の「はやぶさ2」の活躍と新たな旅立ちを見た子供たちからも、将来すばらしい研究者や技術者が育つだろう。そんな子供たちに贈りたい“不思議とワクワク”が詰まった本を紹介する。

まずは、ズバリ『わくわく小惑星ずかん』。これまでも当コーナーで「擬人化したイラストで天体を解説する」という絵本図鑑を掲載することはあったが、ほとんど太陽系内の天体(太陽・惑星・衛星・彗星など)の違いについて特徴的な絵で紹介するものだった。今回のように、小惑星(と彗星や探査機など)にスポットを当てたものは初めて見た。これも、「はやぶさ」と「はやぶさ2」によって小惑星イトカワやリュウグウという名前が広く知れわたったからだろう。自分の子供時代を振り返ると「小惑星とは、百科事典の天文ページで火星と木星の間にツブツブと描かれた岩石」としか認識していなかった。きっとこの絵本を読んだ子供は「小惑星って個性的で面白い」と思い、いっそうリュウグウのサンプルに興味がわくだろう。個人的には「よれよれの箒を持ったファエトン爺さん」の姿と野望が気に入った。主人公の「小惑星マコト」が小惑星の存在意義を探究するストーリーも好感。

『きみは どこから やってきた?』は、ビッグバンから“きみ”が生まれるまでの138億年の歴史をたどる絵本。オーストラリア人絵本作家によるポップな絵とシンプルな展開は、小さな子供もにもわかりやすく「宇宙の不思議と奇跡」を教えてくれる。壮大な進化の物語のなかで「自分が宇宙とつながっている」ことに、大人もドキッとする。

次は、同一シリーズの宇宙科学絵本を3冊紹介する。『たいよう』『ちきゅう』『つき』は、それぞれの天体が自身のことを読み手に語って聞かせるスタイルで、各天体が誕生した歴史や特徴などを伝えるSTEM教育絵本。『たいよう』は、恒星の特徴や周りにいる惑星との関係などをおおらかに語る。黄色くてふっくらした太陽の絵は、見ているだけでも暖かさを感じる。『ちきゅう』は、誕生から様々な出来事によってどんどん進化する様子を元気に語る。イベントが起こるたびに表情が変わる地球の絵は、めまぐるしい変動をわかりやすく伝える。『つき』は、衛星の特徴や地球との関係を優しくふんわり語る。血色の良いぽっちゃり美人の月の絵は、地球のそばに寄り添うかけがえのない存在だと教えてくれる。いずれの絵本も後見返しに、各天体の情報と「太陽へのインタビュー」「月のクイズ」などが載っているので、親子で学ぶこともできる。

『はじめてのかがくのえほん 月のふしぎ』は、生活の中でふと疑問に思う月の謎を一つ一つ丁寧に教えてくれる。月を見る時間や場所で形が変わること、月面がいろいろな模様に見えること、色や大きさが一定でないこと、月齢によるいろいろな呼び名と暦について、潮の干満、月食・日食。印象的な絵と語りによって、子供だけでなく大人も「そうそう、どうして月はそうなの?」と抱いていた“不思議”を導き出してくれる。「自分はこう思う」など考えながら、「実際に月を見てみよう」と観察するといっそう楽しい。謎の答えは、最終ページの「解説と補足」に書かれているので、大人が読んで理解してから子供にわかりやすく伝えてあげよう。

ここまで絵本を紹介してきたが、ここからは一人で読書ができる年齢の人たち(大人も含む!)に向けた書籍を紹介する。『宇宙の話をしよう』は、2018年5月号の当コーナーでも紹介した『宇宙に命はあるのか』の第1章を子供向けに再構成し加筆したもの。といっても、まったく新しいテイストに仕上がり、まるで「宇宙開発の知識と無限の夢が詰まった宝箱」のような本だ。まずは、表紙が素敵! 本文の登場人物が手にする「赤い縁取りに金色のデザインが施された古めかしい本」(ジュール・ベルヌの『地球から月へ』=『月世界旅行』)を彷彿とさせる装丁なのだ(ほかにも凝った仕掛けがある)。NASAの技術者である父と好奇心旺盛な娘の会話で進む物語は、チャーミングなイラストとともにぐんぐん引き込まれる。父が一方的に説明するのではなく、娘の「知ってる!」話をしっかり受け止め肯定しながら補足するように解説が広がる点は、親として参考になる姿勢だ。さらに、豊富な写真や資料によるコラムは専門的で、図鑑としても役に立つ。今後、原書の全5章を1冊ずつまとめて仕上げていくそうなので、どんな“イマジネーション”がこれから広がっていくか楽しみだ。

『宇宙に行ったらこうだった!』は前書のコラムにも登場した宇宙飛行士の山崎直子さんが、自身の体験を元に100問以上の質問に答える形で宇宙活動の現場を教えてくれる本。国際宇宙ステーションでの無重力生活など興味は尽きないが、「どんな匂いか」という質問は行った人しかわからない答えだ(正解は読んでみよう)。

山崎さんのような宇宙飛行士に関心がある人は、2020年12月号の当コーナーで紹介した油井亀美也さん、野口聡一さん、若田光一さんの本をぜひ読んでほしいが、天文学者などの科学者になりたい人には『科学者になりたい君へ』をお勧めする。著者は宇宙論・宇宙物理学を専門とし、東京大学教授・自然科学研究機構機構長・日本学術振興会学術システム研究センター所長などを歴任した佐藤勝彦さん。この本では、自身の研究生活や論文など学術の現場をありのままに綴っている。とくに、コラム5「科学者と『倫理』は」大切なテーマだ。

『宇宙のクイズ図鑑(新装版)』は、2015年に発売された同名書籍に「はやぶさ2」などの最新情報を盛り込んだ新版。「太陽」「月」「惑星」「恒星」「銀河」「宇宙探査」というジャンルごとに全部で100問のクイズが出され、それを解くことで宇宙の知識が身につくミニ図鑑。小ぶりな文庫サイズだから子供が手に持って何度もページをめくり、友人や家族と問題を出し合って遊びながら楽しく学べそうだ。

最後は、コミックス『ジュピタリア』。週刊ヤングジャンプに2020年から連載が始まったSFストーリーで、1巻が8月、2巻が11月に発売された。舞台は2150年の木星圏、主人公は無重力環境下で生まれた“ジュピタリアン”の少年。これがデビュー作品である著者は、「わかりやすい設定・絵面・ストーリー」を心がけたという。主人公はこれから宇宙デブリ回収屋の仕事や仲間を通してジュピタリアとしての自己を肯定し成長していくと思うが、木星圏での暮らしが人類にどんな影響を与えていくか想像してみるのも楽しい。

今回紹介した本を読んだ子供が、全員天文の研究者や宇宙開発の技術者になるわけではない。ただ、いつか大人になったときに「あの本を読んでから、ときどき夜空を見上げている」という一冊に巡り会えれば、幸せなことだと思う。

(紹介:原智子)