Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2018年5月号掲載
地球を飛び立ち宇宙を飛行する人類

“車椅子の物理学者”スティーブン・ホーキング博士が亡くなった(本誌p64で掲載)。彼は生前「人類が宇宙に進出しない限り、1000年後まで生き延びられるとは思わない。ひとつの惑星上で生命が事故に襲われる可能性は、あまりに多すぎる。だが私は楽観的だ。我々は星々に向かうだろう」と語った。

こうした人類の宇宙進出への扉を開いたのが、物理学者で数学者、SF作家でもあるツィオルコフスキーだ。ロケットで宇宙に行けることを証明した「ツィオルコフスキーの公式」で有名な彼だが、その人生を紹介する伝記は多くない。的川泰宣氏による『宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー』 は、幼少期からの家族関係や、聴力を失い独学で学び続けたこと、そしてロケット理論にたどり着く姿などを、多くの写真を載せながら丁寧に紹介している。必然的に当時(ロシア帝国・ソ連)の社会背景も伝わる興味深い内容になっている。

同じ著者が、日本の宇宙開発の歴史を紹介するのが『ニッポン宇宙開発秘史』 。宇宙開発前史から、ペンシルロケット実験をした“日本の宇宙開発の父”糸川英夫氏の業績、そしてさまざまな探査機について解説している。もちろん、小惑星イトカワからサンプルリターンした探査機「はやぶさ」と、それを支えた日本の技術力についても触れている。日本の宇宙開発は、敗戦国が潤沢な予算もなく始めたことだが、「持たざる国」だからこそ「日本の強み」を最大限に利用してきたことがよくわかる。

そして現在、宇宙開発の最前線であるNASAジェット推進研究所で火星探査ロボットの開発に携わる日本人研究者が著したのが『宇宙に命はあるのか』 。人気コミック『宇宙兄弟』公式HPで人気コラムを連載し、監修協力も務めている著者が大切にしているのは、「イマジネーション」だ。過去の宇宙開発も、未来の宇宙への旅も、人類のイマジネーションが源であると訴えている。この本を読むことで、読者のイマジネーションも広がることだろう。ちなみにサブタイトルの「人類が旅した一千億分の八」は、銀河系にある惑星の中で無人探査機も含めて人類が接近した天体の数。その歴史を知ることが、想像力のスタートである。

ここからはその想像力を充分に発揮して、人類が自由に宇宙を移動できるようになる未来の話。『太陽系観光旅行読本』 は、イベント集団「ゲリラ・サイエンス」が一般向け宇宙旅行のために出版したガイドブックの全訳である。出発の準備から各天体の観光スポットやアクティビティまで、ユーモアたっぷりに案内している。

同じく、太陽系を旅するという想定で天体を解説していくのが『太陽系旅行ガイド』 。イギリスの天文解説番組で活躍するマーク・トンプソンの翻訳本。こちらの方がサイエンス寄りで、リアルな思考実験といえる。

最後はSF小説。『太陽系時代の終わり』 は2200年代の火星で暮らす少女が父親からの報告書を読み、彼が重大な実験事故に巻き込まれたことを知る物語。巧妙に作られた世界観にどんどん引き込まれていく。「人類の未来はどうなるのだろう」と思わせるエンディング。

『ボイジャーズ8』 は、コミックのような軽快な児童向け宇宙冒険ドラマ。エネルギー危機を救う宇宙飛行士の候補者として、12歳以下の8人の子どもたちが集められたところから始まる。同年代の読者なら、いっそう夢中になるだろう。1巻で最終メンバー4人が選ばれ、2巻でいよいよ宇宙に出る。続巻も発刊予定で、これからどうなるか楽しみだ。

(紹介:原智子)